第7話

日曜日の10時、一樹はいつもの駅でカレンを待っていた。

「お待たせ、一樹君」

「今来たところだよ、カレン」


カレンは肩の出ているTシャツに、短パン姿で現れた。

一樹はすこしドキドキしながら、カメラのセットを小脇に抱えている。

「今日は、何処で撮影するの?」

「中央公園に行こうと思ってる」

「分かった」


歩き出した一樹に、カレンはついていった。

二人は何も言わず公園に向かった。


一樹は公園の池の脇に着くと立ち止まった。

「着いた」

「ここですか?」

「うん」


一樹は三脚をセットすると、カレンに言った。

「じゃあ、池を見つめて」

「見つめる?」

「絵を描く時みたいに」

一樹の言葉にカレンは頷いた。


瞬間、カレンの表情が変わった。


一樹は何も言わず、シャッターを切った。

風が吹いて、カレンの髪を吹き上げる。


「よし、良い写真が撮れた」

「見せて、見せて!」

カレンが近づく。

顔が近くて、一樹は息を止めた。


「うわ、私可愛い」

「自分で言う?」

一樹は笑った。


その後も、場所を変えて何枚か写真を撮った。

カレンが言った。

「あの、写生してるところとかも撮る?」

「いいの?」

「うん、スケッチブックならいつも持ってるから」

カレンはそう言うと、カバンからスケッチブックを取り出した。


スケッチしているときのカレンは大人びた表情で、美しかった。

一樹は夢中でシャッターを切った。


「今日はここまで」

「お疲れ様」

「お昼どうする? これで解散する?」

「ファミレス行こうよ」

カレンの提案に一樹が頷いた。


二人は駅近くのファミレスに入った。

「スパゲティ、ミートソース一つ」

「私も」

「じゃあ、ミートソース二つとドリンクバー二つお願いします」

一樹とカレンは交互に飲み物をとってきた。


カレンはメロンソーダを一口飲んだ。

一樹はウーロン茶をごくごくと飲んだ。

「一緒にご飯なんて、ちょっと楽しいね」

「そうだね。勉強は順調?」

「うん。小学生からやり直しって、ちょっと精神的に辛かったけど、しょうがないよね」

「基礎は大事だから」


一樹は申し訳なさそうに言った。

カレンはそれを見て、慌てて言った。

「私が勉強できないのがいけないから」

「美大の予備校の方は大丈夫?」

「うん、なんとか追いついてる感じかな? みんな上手」


話していると、注文していたミートソースが来た。


「いただきます」

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