第3話

僕の名前は伊藤一樹(いとう かずき)。

高校二年生。

高校は誰もが知っている進学校だ。


「僕、なんであんな事したんだろう?」

僕は新しく増えたラインのユーザー、カレンを眺めながら呟いた。

「あの絵、印象的だったな」


カレンのスケッチブックの最後の方にあった、海にたたずむ少女の絵のことだ。

まっすぐに、何かを見つめている少女の口元はわずかに開いていて、今にもしゃべり出しそうだった。


「まあいいか。それより宿題と予備校の復習をしよう」

僕は勉強が好きだった。

計算はパズルみたいだし、地理や歴史はクイズみたいだ。

それに、勉強はどれだけやっても無駄にならないというか、文句を言われない。


中学の時は勉強が出来ない奴に、やっかみからいじめられたりもしたけれど。

今は同じように、もしくはとんでもなく勉強が出来る奴に囲まれて刺激的な日々を過ごしている。

でも、ほんの少し物足りない気持ちに襲われることもあった。


まるで、パズルのピースが一つ欠けているみたいな気分。

そこにカレンの絵が、ピタリとはまり込んだ。

<ヴィーン>

スマホが鳴った。


カレン、と表示されている。

<伊藤さん、勉強教えて?>

僕は急な申し出に、戸惑った。

<勉強ってどんなこと?>

<また、電車で会ったら、話したいです>


ちょっと考えてから、返事をした。

<話を聞くくらいならできるかも。その代わり、また絵を見せてくれるかな?>

カレンからはすぐ返事が来た。

<そんなことなら、いくらでも出来ます>


僕はカレンと明日の夕方に会う約束をした。

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