第3話 月明かりに写る思い出

「ふぅ……」

 お風呂上がり、部屋に戻って椅子に座って一息ついたミツバ。机に置いていた携帯電話にサヤカとマホから連絡が来ていたのを見つけて、返信しながらベッドにボフッと寝転んだ

。二人に連絡の返事を終えると、携帯を枕の側に軽く投げて、はぁ。とため息ついた

「何か……最近急に疲れるなぁ……」

 一人呟いては、またため息ついて、すぐ返信がきたサヤカマホからの連絡に目を通していると、いつの間にか眠ってしまった。二人からの返信の音が鳴っても気づかないまま、熟睡してしまった


 数時間後、目が覚めて少しボーッとしつつ、ゆっくりと体を起こした。まだ少し濡れている髪の毛に触れて、はぁ。とため息ついた

「髪……痛んじゃった……」

 ボサボサになった髪の毛を手でほぐしていると、ふと窓から月が見えるのに気づいて、窓を開けて月夜を見た

「綺麗な満月……」

 雲一つない月明かりがミツバの部屋に差し込んでくる。少し窓から顔を出して、月を見ているとミツバの上からコツンと足音が聞こえてきた

「そうだね。とても綺麗……」

 聞こえてきた声の方に振り向くと、家の屋上に月明かりでうっすらと見える人影と聞き覚えのある声に、サクラが声をかけたのに気づいたミツバ。サクラもミツバの視線に気づいて、一瞬ミツバの方に振り向いてすぐ満月を見た



「ねぇ、ミツバちゃん。あの月には、強い力があると思わない?誰も勝てない強い思いが……」

 帰り道で聞いた声とは違い、どこか悲しげに話すサクラの声に、ミツバは少し戸惑っている

「あの……サクラさん……」

 と、ミツバの呟いた声にサクラがクスッと微笑み首を軽く横に振った

「サクラでいいよ。ミツバちゃん」

 微笑んだままジーっとミツバを見ているサクラ。同じく見上げてサクラの様子を見ているミツバの側に来て、屋上の端に座ると、ミツバを見ながらポツリと呟いた

「……やっぱり何も覚えてないの?」

「覚えてるって……何を?」

 微かに聞こえたサクラの話を、不思議そうに返事をするミツバと、聞き返されて答えずにいるサクラ。二人見つめあったまま、お互い何も言わず無言の時間が過ぎていく


「その方がいいや。もう、悲しむこともないし……」

 と言うと、立ち上がりミツバから背を向け帰ろうとするサクラに、ミツバが慌てて窓から体を少し出して呼び止めた

「待って!もしかして、夢のことを言ってるの?いつも、夢の中で現れるのはサクラさんじゃ……」

「これ以上は思い出さないで。言わないで……」

 ミツバの言葉に勢いよく振り返り叫ぶサクラ。うっすらと見えるミツバの顔を見て、強く歯を食い縛る。ミツバは月明かりの影に隠れたサクラの顔が見えず、叫び声を聞いて戸惑いが強くなっていく

「ミツバちゃん、また明日ね……」

 とまたミツバに背を向け歩きはじめたサクラ。後ろから呼び止めるミツバの声が聞こえてくる。振り返ることなく歩いていくサクラ。満月が雲に隠れて空が少し暗くなると、サクラの姿も見えなくなってしまった


「行っちゃった……」

 サクラがいなくなり、少ししょんぼりするミツバ。部屋の中に入り窓を閉めて、ベッドに勢いよく座りいつの間にか床に落ちていた携帯を拾うと、ナツメとマホからの返事を見ながら、明日の予定を確認していると、明日は休日と気づいた

「明日、学校休みかぁ……」

 とポツリ呟いてベッドに寝転ぶミツバ。うーんと背伸びをすると布団を頭までかぶって、ぎゅっと強く目を閉じた





「もう、ミツバちゃんには……」

 ミツバの家から去った後のサクラは一人、 満月の空に向かって呟いていた

「何も知らなくていい。全部、私が……」

 そう言いながら歩きはじめたサクラの手には、ミツバから奪った本と少しボロボロな状態のミツバと同じ本。ぎゅっと強く二冊の本をつかんで、ふわりと空の上を飛んでいった

「行かなきゃ。この本の続きは私が全部書くんだから……!」

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