第2話 夢だったらよかったのに

「ねぇ、ミツバ。聞いてる?」

 サクラが転校してきた次の日の帰る時間、突然マホに声をかけられて、ハッと目が覚めたミツバ。キョロキョロと辺りを見渡すと、ボーッとしているミツバを心配そうにサヤカとマホが見ていた

「えっ?ゴメンなに?」

「もー。今日ずっと何だか変だよ。大丈夫?」

「うん、大丈夫。それでなに?」

「今日、帰りに寄り道する?って聞いたの。どうする?」

 サヤカの質問に、一瞬後ろの席にいるサクラの方を向いた。帰る準備をしているサクラの姿が見えて、机に伏せって考え出した

「今日は止めとく。ゴメンね」

 顔を少し上げて返事をするミツバに、サヤカとマホが見つめあい、ふぅ。とため息ついた

「そっか、じゃあまたね」

 ミツバの返事を聞いて、教室を出ていくサヤカとマホ。二人に手を振り、帰る姿を見届けているとサクラも教室から出ていった。サクラの姿が見えなくなると、ふぅ。とため息ついて、ミツバも帰る準備をはじめた




「何も聞けなかったな……」

 帰り道をトボトボと一人呟きながら歩くミツバ。はぁ。と深いため息ついて、うつ向き歩いていると後ろから声が聞こえてきた

「何を聞こうとしてたの?」

 声に驚き慌てて振り返るミツバ。すぐ後ろにはニコニコと笑っているサクラがいた

「……えっ?サクラさん!」

 突然現れたサクラに驚き、思わず大声で名前を叫ぶ。通りすがりの人たちが二人の方に振り向いて、不思議そうに見ている

「サクラでいいよ。私もミツバちゃんって呼んでいい?」

「ええ……いいけど……」

 周りの様子も気にせず、話しかけてきたサクラに返事をしながら、サクラの体を見渡しながらちょっと後退りするミツバ。その行動に、サクラがクスッと笑う

「大丈夫。私は人間だよ。消えたりしないから」

 ミツバの不安を拭うように、頬をフニッと軽くつまむ。だが、微笑むと思っていたミツバの表情は、逆に段々と表情は暗くなっていく

「じゃあ、昨日のは夢じゃなかったの……」

「そうだね。夢だったら良かったね……」

 返事をしながら、サクラも少しだけうつ向いた。二人とも、ちょっとだけ無言でいると、ミツバが片手に本を持っているのに気づいたサクラが、その本を見て少し表情が強張った


「その本、持ってたんだ……」

 と、本を指差しながら話しかけると、それに気づいたミツバが本を前に持つ直して頷いた

「うん。昨日、本のこと言ってたから、これかなって思って……」

「私が言った訳じゃないけどね。でも、ちょうどよかった。ちょっと借りてもいい?」

「う、うん……」

 恐る恐るサクラに本を手渡すと、すぐパラパラと本を広げ中を確認しはじめた。その様子を不安そうにミツバが見ていると、パタンと本を閉じるとニコッと笑った

「ミツバちゃん。この本、貰うねっ!」

 と言うと、逃げるように走りだしミツバから離れていくサクラ。突然の出来事に追いかけられず、手を伸ばし呆然とする

「えっ?ちょっと……サクラさん!」

 大声で叫んだミツバの声に、本を大事そうに持ったまま振り返ったサクラ。手を伸ばしたままのミツバを見て、手を振り大声で返事をした

「ミツバちゃんは、もう本も昨日と今日ことも忘れてね。また明日ねっ!」

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