クローバーホリック

シャオえる

第1話 月が綺麗な日に

「ねぇ、ミツバちゃん。月、綺麗だね……」

 月明かりを見て微笑む女の子が一人、傷だらけの姿で誰かに向かってまた微笑んだ 

「そんな顔しないで。笑ってほしいな」

 笑って話しかけても、うつ向いたままの女の子。ゆっくりと顔を上げると、たくさんの本が浮いてその中に女の子が一人微笑んで見ていた

「でも……でも……」

「大丈夫。ミツバちゃんと、ちょっと会えなくなるだけだから」

 泣いているその子を優しくぎゅっと抱きしめると少し離れると、一度深呼吸した後、呟くように何かを唱えはじめた

「……待って!」

 女の子の唱えている姿を慌てて止めようと、手を伸ばしても届かず、体も全く動かず近寄れないまま叫び続けた。だが、叫びも虚しく、唱え終えたその女の子の手に持っていた本が光を放ち姿を変えていく。光が消えて現れたのは本は大きな剣となり、女の子はその大きな剣を迷うことなく振りかぶった





「まって!」

 叫びと共に、ハッと目が覚め汗だくで飛び起きたミツバ。息も荒く呼吸が整わず、しばらくベッドの上で深呼吸をしてボーッと部屋の中を見渡した

「またこの夢か……」

 夢の内容を思い出して、はぁ。とため息つきながら、ベッドから降りて、机に置かれた一冊の本を取って見つめた。無言でしばらく見ていると、側にあった目覚まし時計が騒がしく鳴りはじめた

「遅刻だっ!」

 バタバタと急いで制服に着替えてると、机に置いていた本を置きっぱなしで部屋を出ていった




「サヤカ、マホ!おはよう」

 教室に入ると、友達に手を振りながら声をかけながら、席に向かうと、隣に座るサヤカとマホがミツバを見るなり、機嫌よく手招きをした

「ミツバ、聞いて聞いて。今日転校生が来るんだって!」

「へぇ。どんな人って?」

「それはまだ分かんないけど……気になるね!」

「そうだね。気になる」

 三人が楽しく話していると、ガラッと教室の扉が開いて担任の先生が入ってきた

「みんな、席につけー」

 担任の声と同時に、少しずつ騒がしさが落ち着いていく教室。しばらくすると、静かになったのを確認すると、先生が話はじめた

「もう、噂になっていますが、転校生がこのクラスに来ました。どうぞ、入ってきて」

 と、入り口にクラス中のみんなが目を向けると、髪の短く少し小柄な女の子が入ってきた


「今日から、このクラスで一緒に学ぶことになりました。サクラさんです」

 担任が話をしている側で微笑むサクラに、みんなも微笑んで話を聞いていると、サクラがミツバを見つけニコッと微笑んだ

「席は……」

 サクラの席を探しはじめ、ふとミツバの後ろの空いてある席を見つけ指差した

「あの空いている席だな。教科書とか足りないものは、みんな借してあげるように」

 席へと歩きはじめたサクラ。クラス中の視線を感じながら歩いていると、ミツバの前に一瞬立ち止まり、ニコッと笑った


「すごい人気……」

「この学校、あまり転校生っていないからね……」

 休み時間になると、サクラの周りには違うクラスの人達も見に来て騒いでいた

「話もできなさそうだね……」

「話したいの?」

「うん、少し……」

 サクラの様子を見ているとチャイムが鳴り、騒がしかった教室がまた静かになっていく。その後も授業中もお昼時間もミツバはサクラに話しかけられず、帰る時間となってしまった。席の後ろで帰る準備をしているサクラに話しかけられず、サヤカとマホと一緒に教室を後にした




「じゃあね、二人とも。また明日ね!」

 サヤカとマホに二人に挨拶をすると、先に駅から降りたミツバ。人混みを避けて街に出ると、同じ制服を着た人を見つけた

「……あれ?」

 壁にもたれて携帯電話を触っているその制服を着た人の顔を見ると、今日転校してきたサクラということに気づいたミツバ。ちょっと驚いて、話しかけようか戸惑い足を止めた

「家が近いのかな?一緒に……」

 あたふたと一人戸惑いうろたえていると、いつの間にかサクラの姿が居なくなっていた

「帰っちゃった……」

 仕方なく、トボトボとまた人混みを避け歩きはじめたミツバ。あっという間に人通りも少なくなり、家の近くになってきた頃、ミツバの前にまた知っている人影が現れた

「あれ?サクラさん、家ここら辺なの?」

 ミツバが声をかけると、サクラは声を聞いてニコッと笑う

「ううん、違うよ。けど、用があって来たの」

 と、話しかけながら近づいてくるサクラにミツバも少しずつ後退りする

「ねえ、ミツバ。本持っているよね?その本を渡してほしいの……」

「……本って?それに、私の名前何で知ってるの?」

 ミツバの質問に答えないサクラ。ただニコニコと笑ってまた少しずつミツバに近づいてくる。ミツバもまた、サクラの歩幅に合わせるように、少しずつ後ろに歩き出す。二人無言で見つめあったままでいると、突然ミツバの後ろから叫び声が聞こえてきた

「その人は、私じゃなーい!」

 その声に驚き振り向くミツバ。空から飛んでくる人影が、ミツバの横を通り抜け、サクラの方に足を向けて飛んでいった。だが、サクラの体に足がぶつかる寸前に消えて、叫んでいたその人は、地面にバンッと足音をたてながら立ち上がった


「間一髪だったね。ミツバちゃん、大丈夫?」

 ふぅ。とため息つき話しかけながら、ミツバに近づいてくるのは、たった今、目の前で蹴飛ばされ消えたはずのサクラ。怪我をしている様子もなく、ニコニコと笑ってミツバに手を差し出した

「えっ……うん……大丈夫」

 つられてミツバも手を出して握手をすると、サクラが両手でミツバの手をつかんで、ぎゅっと強い力で握りニコッと笑った

「そっか、良かった!」

 サクラの笑顔を見ても、ミツバはまだ状況が読めず戸惑いは強くなるばかり。説明をするでもなく手をつかんで微笑んでいたサクラ。ミツバの手を離すと、振り返るとまだ戸惑った様子のミツバにまたニコッと笑って手を振った

「今見た事は、みんなに内緒ね。それじゃ、また明日ね!」

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