一人で寝るのは

私も観音かのんも、男性にモテたいとは思わないから、別に、男性にモテるような女でいる必要もない。


その一方で、私達の在り方が正しいとは言わない。


でも、他人にそれを否定されるいわれもない。


ダンナが死んで何もかも嫌になったこともあったけど、今はもう.ダンナと結婚して良かったと感じている。


「そろそろ寝ようか」


私が声をかけると、観音かのんも、


「そうだね」


と応えて、パソコンを終了させた。




ダンナと一緒に寝てたダブルベッドに、今は、観音かのんと一緒に寝る。


ダンナが生きてた頃はさすがに観音かのんも自分の部屋で寝てたけど、ダンナの癌が判明して余命宣告を受けると、


「一緒に寝ていい?」


と訊いてきたんだ。それから、ダンナが家にいる間は、私とダンナはベッドで観音かのんは床に敷いた布団で、同じ部屋で三人で寝た。


ダンナが入院すると、私と二人でベッドに寝た。


観音かのんもそうだけど、私も一人で寝るのは嫌だったんだ。


彼女がいてくれたことは、本当に救いだった。


ただ、私と観音かのんは二人で一緒にいられたけど、ダンナは病院のベッドで、一人で、寝てたんだと思うと、たまらない気分になる。なのにダンナはいつも平然としてて、見舞いに来る私と観音かのんを、笑顔で迎えてくれた。


本人はどんどんやつれていってたのにさ。


だからつい、訊いたんだよ。


「怖くないの? どうしてそんなに平気そうにしてられるの? 怖いんなら怖いって言ってよ!」


ってさ。


なのに彼は、


「怖いね。確かに怖い。だけどさ、その怖さは、君と観音かのんを残していくことの<報い>だと思ってる。そう考えれば、仕方ないことだと、納得できるんだ」


そんな風に言われて、私は、つい、


「ふざけないで! そんなのおかしいよ! あなたが死ななきゃいけない理由なんてないじゃない! それなのにこんなことになって、私と観音かのんを残していく報いだとか、ありえない! そんなこと言ったら、死ななきゃいけない人なんて、他にもっといるじゃない! なんであなたが.……!」


ってさ。すると彼は、悲しそうに微笑んだだけだった。


それがまたたまらなくて、私は、なにも言えなくなってしまった。


それからも、結局、彼は、ほとんど泣き喚いたり感情的になったりせずに、息を引き取ったんだ。


一応、ホントのホント、最後の方、意識が朦朧としてる中でだけ、呻いたり、赤ん坊がぐずってるような声を上げたりしてただけだった。


正直、彼が言う通り、私達に心配をかけたくなかったんだろうけど、逆に、『頼りにされてなかった』っていう気持ちになったりもしたよ。


それだけは、今でも恨んでる。


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