もし出て行くとしたら私の方
なんてことを考えながら家に帰ると、誰もいなかった。と言うのも
高校二年の時、彼女は言ったんだ。
「金銭面で負担は掛けないからさ、大学には行かせてよ」
って。彼女は、将来、ゲーム関係の、特にキャラクターデザイナーの仕事がしたいそうで、そのために絵の勉強がしたいということで、美大に行くことにしたんだ。
「大丈夫なの?」
問い掛ける私に、彼女は、
「うん、奨学金受けてさ、バイトもしてさ、自分で返す。でも、できたら、奨学金を返し終わるまでは家にいさせてくれたらありがたいかな」
だって。
「……そんなこと心配しなくたって、ここは元々、あなたのお父さんの家だから、もし出て行くとしたら私の方だよ。それにお金なら当面の間はそんなに心配しなくていいし……」
苦笑いで返す私に、
「それもそうか」
と彼女も笑った。
私が口にした通り、ここはダンナと前の奥さんが建てて今はダンナの名義になってる家で、お金も、ダンナの生命保険が下りたから、今すぐどうこうってほどは困ってない。現金資産の方は、相続税の支払いでほとんど持ってかれちゃったけどさ。
私が何も言わなくても、
『親はなくとも子は育つ』
とはよく言われることだけど、私の実感としてはその言い方だと言葉が足りない気がする。
だって、
だからさ、正確には、
『最低限必要な部分が育ってれば、後は親はいなくても育つことができる』
って感じかな。
それを思うと、また胸に込み上げてくるものがある。失ったものの大きさに愕然となる。
誰もいない部屋の空気の冷たさ重さに押し潰されそうになる、
ああ……だけど、ダメだな……こんなことじゃ。彼に心配を掛けちゃう……
そう思い直して、私は、頭を起こした。
「さ! 掃除して食事の用意しなきゃ……!」
誰に聞かせるでもなく、ううん、私自身に聞かせるためにそう声を上げて、部屋着に着替える。いかにも芝居じみた嘘くさいそれでも、たぶん、こういう時には必要なんだろうな。
実際、気持ちが切り替えられたし。
そうして私は、ざっと部屋の掃除をする。お掃除ロボットがしてくれてる部分はそのまま、他の部分はお掃除ワイパーでざっと拭くだけの手抜きだ。決して『小さい』とまでは言えないこの家を毎日隅々まで丁寧になんて、仕事をしながらじゃ現実的じゃない。
ダンナが生きてた頃はホームヘルパーを派遣してもらってたけど、今の私の収入だけじゃ、さすがにそれもね……
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