理想の男性像

彼は、私が思い描いていた<理想の男性像>そのものだった。


イケメン過ぎず、柔和で、温和で、優しくて、寛容で、大きな器を感じさせて、そして知的で。


っていうさ。だから、ほぼ一目惚れだったんだよ。


彼は、デザイン事務所に勤めてた。元々はもっと大手のデザイン事務所に勤めてたそうだけど、同期の友人が独立する際に、彼も誘ったんだって。


というのも、彼は上司から嫌われてて閑職に追いやられてたのをその友人が見かねてってことらしい。


で、なんで上司から嫌われてたかって言うと,前の奥さんと結婚したかららしいとか何とか。


つまり、嫉妬されたわけだよね。その上司も、彼の前の奥さんのことを狙ってたって話。


ないわ~、自分が振り向いてもらえなかったからってそれを逆恨みしてとか、ないわ~。そんな男、よっぽど金を持ってるか超絶イケメンでもないと相手にもされないでしょ。しかも、その上司、既婚者だったんだよ? つまり、不倫狙いだったってわけ。


頭痛い……


正直、条件は必ずしも良くなかったけど、友人のデザイン事務所に移って仕事はさせてもらえたそうだ。彼自身、お金のためっていうより自分自身のやりがいとして仕事をしてるっていうタイプだったから、よかったみたい。


前の奥さん自身は早々に他のデザイン事務所に引き抜かれて転職してたそうだけど。


彼の前の奥さんは、野心家で上昇志向の強い人で、才能にも溢れててって人だったらしい。実は知る人ぞ知るって人でもあってね。


私は知らなかったけど。


なのに、彼女としてはもっともっと自分には相応しい場所があると考えてて、でも思うようにいかなくて、仕事に対する情熱を失ってしまってさ。一応、籍は置きながらも休業状態で。


でも、彼女、デザイナーとしては才能もあるんだけど、家庭のことはさっぱりで、家事はホームヘルパーに。育児はシッターに任せっきりだったって。


そう。観音かのんが生まれてからも、しばらくは一緒にいたんだ。観音かのんが三歳になるまでは。彼女なりに家庭と仕事の両立を図ってたとのことで。


母親は、一度だけ、保育園に顔を出したことがある。お遊戯会の時だった。美人な上にバシッと決めたブランド物のスーツ姿で現れてたから、すごく目立ってた。


他のママさん達からは浮いてるくらいには。


よくもまあそんな女性とダンナも結婚したものだよね。正直、彼女としては、ダンナは、彼女の好みだったのもそうだけど、何より、体裁のためというのが大きくて、その次に、家のことをやってもらおうっていうのもあったみたい。


ああでも、こういうのはダメだな。ダンナが選んだ女性をこんな風に言うなんて、ダンナ自身を貶めてるのと同じか。


気を付けなきゃ。


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