第4話不思議な彼女

二人で逢えたのは嬉しくて、コロコロ笑う彼女に釘付けで、

『ねえ、きっとあの子は今から初デート何だよ』

人間観察していた彼女は、頬を少し赤らめながら、そわそわ時間を気にしてる高校生を見て、そんな事を言った。

だから俺は、

『じゃあ、あのおじさんは営業で外回りしていたけど、良い結果が得られなくて、ちょっと会社に帰り辛いんだ』

と返した。

『誠君はなかなか深いところをつくね。…じゃあね』


一見すると、下らない事かも知れないけど、彼女となら楽しかった。

振り回されているとは思ってない。

寧ろ、例え暇なときだったとしても連絡をくれるのは嬉しい。

ただ、この時の俺は、学業に迄支障を来しているとは気付けずにいた。


あれから何度か、同じように呼び出されて会う日々が続いている。

俺から掛けた時は電話に出てくれなくて、彼女からかけてくれた時だけ会話をして、会うことが出来る。

その他の伝達ツールも、俺達の間では使われる事はなかったけど、俺は幸せだった。

初めての彼女では無いけど、初恋何だと思う。

彼女と時間を過ごすのにバイトに励んだ。

いくら年上でも女性にお金を出させたくないと言う、男としての見栄からそうさせていた。

だから余計、俺は大学から足が遠退いていたのだ。


◇◇◇

「バカ誠」


久々に来ていた大学で、斎藤が不躾に言ってくる。


「何だよ、いきなり」

「お久しぶりですね、誠君」


ニッコリと笑う斎藤、かなりムカつく。


「その言い方の方がムカつくから止めろ」

「お前、中坊かよ?」

「何で俺が中坊何だよ?」

「ああ、中学生に失礼だったな?」

「だから!!」


何が言いたいんだよ!?


「溺れてんぞ?」


急に真面目な顔をした斎藤が俺に忠告してくる。


「誰がだよ?」

「お前以外に誰がいるんだ?」


お久しぶり、その言葉に斎藤が言いたいことの全てが詰まっているのだろう。

解ってはいる。気付いてはいたんだ俺だって。


「……」

「はあ、後は自分で考えな?…お前は基本は馬鹿じゃないんだから」


誉めてんだか、貶してんだか解らない捨て台詞を吐いて斎藤は歩いていってしまった。

そのタイミングで葉子さんから電話が来た。

親友からの忠告に、少しの罪悪感は有るけれど、認めよう。

俺は溺れてるんだ。

「はい」

『ああ、誠君?…これから会える?』

「葉子さんは今どこにいて、何をしているの?」


何時もは聞いたこと無かったけど、斎藤の言葉が余儀って、聞いてみる。


『珍しいね、どうしたの?』

「別に?」

『もしかして、忙しい?』

「そんな事無いけど…」


質問には答えてくれなくて、それでも俺は何時ものように待ち合わせ場所に向かった。


◇◇◇


待ち合わせ場所には既に彼女の姿。

その姿を見てしまえば、素直に嬉しかった。


「誠君!!」


嬉しそうにする彼女の手には買い物袋がぶら下がっている。


「葉子さん、それどうしたの?」


俺の言うそれとは勿論、買い物袋の事だ。


「ああ、これ?…これは誠君にご飯を作ろうと思って買ってきたの」

「俺に?…俺のため?」


何だよ、これ。嬉しすぎるだろ。


「じゃあさ、俺の家…来る?」

「今日はさ、家においでよ」


初めて…女性の家に行く。

いや、正直に言えば、高校生の頃少しだけ

ある。

だけど、それは俺のなかで彼女と同列に扱うことは出来ない。


「行っていいの?」

「勿論」


行くしかないだろ?男ならさ。(←意味不明)


電車に乗り、普段は降りない駅で降りた。

その駅の存在は勿論知っている。

実家の最寄り駅の一駅手前だからだ。

これも縁か?

何て、この時の俺のお目出度い頭を殴ってやりたい。


◇◇◇


「私のアパートはここよ」


彼女が初めて連れてきてくれた、彼女の家は、3階建ての薄い緑色の外壁に白い屋根、白の窓枠が可愛らしいアパートだった。

新しい物件ではない。

けど、消して古びている訳じゃない。

ちゃんと手入れのされたレトロなアパートは、彼女によく似合ってた。


アパートが似合っている、何ておかしいと思われるのかも知れないが、真面目に俺は似合っていると思った。


「ここの2階の端の部屋よ」

「一階じゃなくて良かったです」

「あら、どうして?」

「女性の独り暮らしですよ?…危ないじゃないですか」

「そうかしら?」

「そうですよ」

「まあいいわ。行きましょう」


葉子さんに手を引かれて階段を上り、部屋の前までたどり着いた。

白のドアの鍵を開けると、玄関には観葉植物が置いてあった。


「どうぞ?…何て何もない部屋だけど」

「何もなくないですよ。葉子さんらしいお部屋です。…遠慮せずお邪魔します」

「私らしい?…」

中に入る様に促された俺は、当然中に入る。

入らない何て言う選択肢は元々俺の中にはない。

ちょっとワクワクしていたから、彼女が最後に呟くように言った言葉を拾い上げる事が出来なかったんだ。

間が悪い、鈍い。

きっと斎藤がいたらそう言っている事だろう。


◇◇◇

玄関を入ると、廊下の奥が部屋になっている。

右側がお風呂とトイレだろう。

洋風の室内に、十畳ほどの1DK。

女性が一人で暮らすには十分な広さがある。

備え付けのクローゼット。

奥行きは解らないが、横幅は大きい。

床はフローリングになっていて薄紫色ラグがひいてあり、テーブルと小さなソファーに横の窓際にはベット。

その部屋の突き当たりと横は窓。突き当たりの方にはベランダがあった。

ベランダにも花が育てられている。

彼女は植物が好きなのだろう。

何も知らない彼女の秘密が一つ知れた様で嬉しかった。


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