第6話 ユーカリ
魔法を覚えていたはずが、目を開けると、いつのまにか朝になっていた。
(寝落ちしちゃったか。)
「はあーあ。」
体の重だるさを引きずりながら起き上がり、雨がやんで明るくなった外をぼーっと眺めた。
しばらく外を眺めた後、魔法で水を作って顔を洗ってぼさぼさの頭をほどくと、何かが手に当たった。
「あ。」
取って見ると、それはフローが貸してくれたスズランの髪飾りだった。
「返すの忘れてた…。今度会った時に返そう。」
私は髪飾りをハンカチで包み、大事に服と服の間にしまった。
これなら壊れることはないだろう。
適当に髪を縛ると、私はのろのろと洞窟の外に出た。
外は昨日の豪雨が嘘のように晴れ渡り、心地よい風が吹いていた。
「お腹すいた…。」
雲一つない空を見ながら、私は呟いた。
そういえば、昨日の朝から何も食べていない。
「何か食べれる草とかないかなあ。」
と言っても、私には植物の知識もなければ、動物を狩る技術もない。
何か当てはあるかと、魔術書を開いてみる。
「あ!」
すると開いたページには、魔術についてではなく、見たことのない植物について書かれていた。
「え、すごっ!」
驚きながらもページをめくってみると、本のすべてのページが、植物や魔獣についての内容に書き変わっていることが分かった。
「私が、食べられる植物を知りたいって思ったから?」
どうやらこの本は、持ち主の意向に合わせて内容を変化させるらしい。
(便利なものもらっちゃったなー。)
私は胸を躍らせながら、早速食べられる植物を探してみた。
本に書いてあるのはどれも薬草などの魔法に関するものだけだったが、私は何とか食べても問題なさそうな植物を三つほど集めた。
ゼンマイのような見た目をした植物と、リンゴみたいな実、それと灰色の変な形をした花だ。
「食べても大丈夫なのかなあ。」
本にはその植物の効果や生息地などが書かれているばかりで、味については何も記載がなかった。
「まあでも、試してみないと分からないよね。」
私はとりあえず、一番見た目的においしそうなリンゴのような実を手に取った。
実といっても、これはキノコの仲間らしい。
私が採取したときは地面に生えていた。
「えーっと、お腹の調子をよくする効果があると…。まあ、関係ないか。」
思い切って一口かじってみる。
すると中から果汁のようなものがあふれ、口の中にえぐみが一気に広がった。
「うえぇ…まっず!」
あまりの苦さに一気に目が覚める。
「やっぱり見た目で判断しちゃだめだ…。これは一旦保留にしよう。」
私はキノコを枝に差して、弱くくすぶっている焚火の火で焼くことにした。
焼いたら普通のキノコみたいにおいしく食べられるかもしれない。
「じゃあ次はこれにしよう。」
次に、私は一番まずそうな灰色の花を手に取った。
これは体の毒素を抜くのにいいらしい。
さっきの苦みをこれで解消できるといいが。
つつじみたいに花の茎をくわえて、蜜を吸ってみる。
(あ、おいしい!)
柑橘系のようなさわやかな甘みが、キノコの味を消していってくれた。
しかし一つの花が小さいためすぐに味が無くなり、再び口の中に苦みが戻ってくる。
「これはあとでまた採りに行こう。」
最後に残ったのは、一番見た目がマシそうなゼンマイだが、見た目に騙されてはいけない。
「さっきみたいにまずいかもしれないし…。」
私は恐る恐るゼンマイをかじった。
すると、パンのようなふわっとした噛み応えがし、香ばしいアーモンドのような味がした。
「おお。おいしい…!」
思いがけない味と触感に驚きつつも、私はあっという間に食べてしまった。
「こんなにおいしいとは思わなかったな。そうだ、これは何に効果があるんだろう。」
ゼンマイについて書かれたページをめくってみると、そこには「苛立った心を鎮める」と書かれていた。
さらに「不満や苛立ちといった負の感情が多いほどおいしく感じる」とも書いてあった。
「…。」
思い当たる節があるが、気のせいだということにしておこう。
静かに本を閉じ、私は焼き終わったキノコを手に取った。
まずは臭いをかいでみる。
特に変な臭いはしないが、油断は禁物だ。
小さくはじっこだけかじり、ゆっくりと噛んでみる。
「うえ…。」
先程よりはましになったが、やはりえぐみがひどい。
申し訳ないが、これはお腹が痛くなったら使うことにしよう。
私はキノコを葉っぱに包んでトランクに入れた。
「他にも薬草っぽいもの集めておこう。売ればお金になるかもしれない。」
探してみると、この森には薬草がたくさん生えているのか、一時間で十種類ほどが手に入った。
私はそれらを種類ごとに葉っぱに包むと、服を入れたトランクにしまった。
(あまり服と植物を一緒にしたくはないけど、まあ、しょうがない。)
服をなるべくはじに寄せて、私はふたを閉じた。
カチッと小気味よい音がして、トランクのカギが閉まる。
きちんと変装できているか、もう一度水たまりに顔を映してみる。
濃い茶色の髪と瞳の少女がこちらをのぞいている。
私は今一度、服装がおかしくないか確認した。
使用人の服とはいえ、今はエプロンもつけていないためただの紺色の服にしか見えないと思うが…。
洞窟を出るだけなのに、何だか緊張してしまう。
トランクを持ち、薬草をしまったせいで入れられなくなった魔術書を脇に抱えた。
日が昇ったことで外はよりまぶしく輝いている。
「よし、出発だ。」
私はスッと背筋を伸ばし、深呼吸すると、足を一歩前に踏み出した。(…大丈夫そう。)
ユーカリ:新生
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます