#859

――アンが再び立ち上がり、フォクシーレディへ襲い掛かろうとしていたとき。


彼女たちの上空では、ジャズとローズの激しい戦いが続いていた。


ジャズはフォクシーレディにくだかれたミックスの欠片かけらから得た力――合成種キメラグラビティシャドーが持つ重力をあやつる能力を使う。


ローズはマシーナリーウイルスの適合者が持つ力――自身の身体を機械化する装甲アーマードと、そこから放出される電撃で対抗たいこう


そして、Personal link(パーソナルリンク)――通称つうしょうP-LINK。


マシーナリーウイルスの適合者と合成種キメラ、さらに神具の加護、啓示に受けた者同士の意思の疎通そつう可能かのうにする力によって、互いの思念をぶつけ当たっていた。


「もうあなたにはわかってるんでしょッ!? あたしたちが今していることが、どれだけ無駄なことなのかってッ!」


ジャズの放つP-LINK ――精神感応テレパシーと共に吐き出される言葉に、ローズは無意識にふるえていた。


それは、彼女の身体から本人以外からの意思も感じたからだった。


だが、ローズには引けない理由があった。


ここで投降とうこうするようならば、これまで何のために戦ってきたのかわからなくなると、ジャズの放つ言葉と思念を振り払う。


「無駄なことなどない……。私は七年……いやこの八年間で嫌というほど知った……。世界など取るに足らんくだらんものだと。所詮は他人、他国よりも優位でいたいという傲慢ごうまん欺瞞ぎまんあふれているのだとな。お前がしてきたように、すべての者が手を取り合えると思うなッ! 」


「そんなに人が信用できないんですかッ!?」


「私が信用していた人間は、この世界に殺されたッ!」


そして、ジャズの説得もむなしく、再び激しく衝突。


互いの拳をぶつけ合いながらローズが言う。


「お前は私が憎くないのかッ!? 私はお前の弟を殺し、クリーン・ベルサウンドの命も奪ったんだぞッ!」


「憎いよッ! 憎いに決まってるじゃないッ! でもここであたしが憎悪ぞうおに染まったら、みんながこれまでしてきたことが無駄になっちゃうッ!」


ジャズはそう叫び返しながら、腕に付けていた腕輪バングルのスイッチを入れる。


そして、重力波を出しながら声を張り上げる。


効果装置エフェクトッ!」


ジャズの腕が、叔父であるブロード・フェンダーの形見――効果装置エフェクトによって機械化。


その腕を振り上げ、ローズの腹部へ機械の拳を叩き込む。


まがい物の力で私を止められると思ったかッ!」


ローズはこれをこらえ、反撃の右フック。


今度はジャズの顔面に装甲アーマードの拳を喰らわせた。


だが、攻撃したローズのほうが逆に態勢をくずし、ジャズの膝蹴りがまた彼女のボディへ突き刺さる。


膝蹴りで吹き飛ばされたローズは、ジェットパックをコントロールし、なんとか空中で態勢を整えた。


ジャズは、そんな彼女を見ながらも何もせず、再び声をかける。


「そんなフラフラの状態で、まだ戦うつもりですか? あたしを……あたしたちを馬鹿にしないでくださいッ!」

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