#857

地面に落下したフォクシーレディがうめきながらも立ち上がる。


「一体なんなのよこれはッ!? 反重力装置アンチグラビティは正常に機能してるのにッ!?」


反重力装置アンチグラビティとは、バイオニクス共和国が造った人工知能――サーベイランス・ゴートが開発した飛行装置である。


反重力場を発生させて星から引力をコントロールし、宙を自在に動けるというものだが。


どういうことか、故障こしょうしていないというのに、フォクシーレディの身体が空から落下してしまった。


「しかもなんなのよ……これッ!? 身体が重いッ!?」


なんとか立ち上がったフォクシーレディだったが、その身体はまるで全身に重たいかせを付けられているかのようで、動作がにぶくなっていた。


そんな彼女の目の前――ジャズがゆっくりと地上へと降りてくる。


「まさかあんたッ!?」


手をかざしなから近づいてくるジャズ。


彼女の腕は真っ黒な竜巻のような渦におおわれていた。


「あの子の力を……いや合成種キメラの能力を使っているのッ!?」


大声で喚くように叫んだフォクシーレディを見据みすえなから、ジャズは口を開く。


「この力が何なのかはあたしにはわからない……。だけど、これはミックスと……あいつが友だちって言っている人の力だッ!」


ジャズが叫び返すと、フォクシーレディの身体が大地へとめり込んでいく。


まるで彼女だけに重力の負荷ふかがかけられているような、そんな状況だ。


「あの子から舞った欠片かけらを浴びて化け物になるなんて、そんなの反則よッ!」


ますます地面にめり込みながらフォクシーレディが声を荒げる。


その動揺ぶりからわかる。


フォクシーレディには、ジャズが手に入れた合成種キメラの力に対して、反撃の手段がないということが見て取れる。


だが、ひるんだ彼女を守ろうと、宙に浮いていた機動砲台が一斉にジャズに向かって集中砲火。


ジャズがこれを避けている間に、彼女を押さえつけていた重力が解け、彼女から距離を取る。


顔を強張らせて後退したフォクシーレディだったが、すぐに余裕の笑みを取り戻した。


「ヤバいと思ったけど、どうやら幸運の女神がやって来たみたいね」


そう言ったフォクシーレディの視線の先には、こちらへジェットパックで飛んで来るローズ·テネシーグレッチの姿だった。


ジャズはローズの姿を確認すると、その場から飛翔。


現れたヴィンテージの目の前へと立つ。


「ローズ将軍……」


「ジャズ……。ジャズ·スクワイア……」


顔を突き合わせた二人は、互いにポツリと名をつぶやきあった。

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