#856

砕かれたミックスの破片はへん粒子りゅうしになって宙を舞い、風に流されていく。


「そ、そんな……ミックスが……ミックスが……」


ジャズは戦闘中だというのに、インストガンから手を放していた。


手放された電磁波放出装置が地面へと落下していく。


ジャズは目の色を失い、そしてそのひとみには涙がまっていた。


そのときの彼女は、まるで糸の切られた操り人形のように、情けなく弛緩しかんしている状態。


そんなジャズを見て、フォクシーレディは高笑う。


「ワッハハハッ! イイ顔してくれるじゃないッ! そりゃそうよね。だってあなたがこれまでやって来たことって、全部この子の受け売りだったもんね!」


「ミックスゥ……ミックスゥゥゥ……」


「あら? 返事もできないほどショックだった? もしも~し、せっかくなんだからあなたの感想を聞かせてよ。この子とまた話したかった? それともキスして抱き締めてあげたかった? ほら~さっさと答えなさいよッ!」


泣きながら空中で立ち尽くしているジャズには、フォクシーレディの声は聞こえていなかった。


彼女の五感は、すべて砕かれたミックスのいた場所へ向けられており、ただそこを見つめているだけだ。


だがそのときに、風に舞っていたミックスの粒子が、ジャズの身体をつつみ込む。


そして、その砂漠の砂のような一粒一粒が光輝き始めた。


「うん? なんなのこれ? 気味が悪いわね」


フォクシーレディはその光に嫌悪感を覚えていたが、ジャズのほうは懐かしい暖かさ感じていた。


そして、彼女の頭の中にもっとも聞きたかった人の声が聞こえてくる。


《ジャズ……ジャズ……。大丈夫、大丈夫だよ》


「この声は……? 」


ジャズはすぐに気が付いた。


この声の主が、今目の前で粉々こなごなに砕かれたミックス・ストリングだということに。


「ミックスッ!? ミックスなの!?」


《そうだよ、ジャズ。俺はずっと君に会いたかった》


「ミックス……。あたし……頑張ったのに……ずっと、ずっと無理してきたのに……。いっぱい大事な人が死んじゃった……。ミックスも壊されちゃったよ……」


ジャズは聞こえてくるミックスの声に泣き言を口にして甘えた。


それは、ずっと彼と会えていたときにはできなかったことだった。


すすり泣く声で言葉を吐くジャズ。


そんな途切れながらも続けられた彼女の声に、ミックスは返事をしながらも話をさえぎったりはしなかった。


それからジャズの言葉が止むと、ようやくミックスのほうから彼女へ話を始める。


《これまで無理をして、ずっと長い間頑張って来たんだね、ジャズ。でも、これからは俺も、そしてずっと俺を守ってくれていた友だちも君と一緒に戦うよ》


ミックスの声は、その言葉を最後にジャズの頭の中から消えた。


そして、彼女を包み込んでいた砂粒のような粒子も風に飛ばされていく。


ジャズが顔を上げると、フォクシーレディはまだ笑っていた。


それを見た彼女は、静かに右腕を上げ、その手をフォクシーレディへと向けると――。


「な、なにこれッ!? 急に身体が重ッ!? キャアァァァッ!」


宙に浮いていたフォクシーレディの身体はそのまま地上へと、物凄い勢いで落下らっかしていった。

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