#855

ストリング帝国の先代の皇帝だったレコーディ·ストリングには子供がいなかったため、よりマシーナリーウイルスの適合率の高かった少年少女が養子に選ばれた。


それが後の第一皇子であるアンビエンス·ストリング と、皇女イーキュー·ストリング――そして第二皇子ミックス·ストリングだった。


帝国がバイオニクス共和国の前身組織だったバイオナンバーに敗れた後――。


ウイルスの侵食しんしょくなやまされていた第二皇子をなんとか救いたいと考えていたアンビエンスとイーキューの二人は、帝国の将軍ノピア·ラッシクに相談。


ノピアは、アフタークロエ以前にあった暴走コンピュータークロエとの戦いの後に回収した合成種キメラ――重力を操るグラビティシャドーの核をミックスの体内に埋め込めば、ウイルスの侵食がおさえられると説明し、皇子と皇女はその手術を彼に頼んだ。


手術は成功し、ミックスはマシーナリーウイルスの適合者として、世界で数少ない完全なる適合者だったアン、ローズのテネシーグレッチ姉妹と肩を並べる人間となった。


だが、かつて合成種キメラを殲滅せんと武力行使をした帝国で、その第二皇子がその化け物の核を埋め込んだという事実は、ミックスの身に危険をおよぼすかもしれない。


さらに、バイオニクス共和国を建国したバイオナンバーの研究施設に、実験対象として、そして人質としてうばわれるかもしれない。


それを恐れた二人はノピアに頼み、彼が敵ながら親交のあったメディスンから戦災孤児の学校の教師をしていたアミノへと話が通り、ミックスはバイオニクス共和国へ住むことになったのだった。


「たしかあなたの上司じょうしだったわよね? ノピア·ラッシクって」


「ノピア将軍は……全部、知ってたんだ……」


共和国へ叔父おじを止めるために単独で侵入し、そこで出会った自分を救ってくれた少年の事実に、身をふるわせるジャズ。


話を終えたフォクシーレディは、充実した表情でミックスに寄り掛かると、妖艶な笑みを見せる。


「でもさ。結局、アンビエンス皇子もイーキュー皇女も、この子と同じようにウイルスの侵食で機械化寸前になっちゃっているんだよね」


「なにをするつもりッ!?」


立ち尽くしていたジャズの目に意志が戻る。


その先には、どうしてだかマシーナリーウイルスの能力である機械化――装甲アーマードした腕でミックスを撫でるフォクシーレディの姿があった。


「だから帝国ももう終わりでしょ? だからこの子はもういらない」


「やめてぇぇぇッ!」


ジャズの叫びもむなしく――。


機械のかたまりとなったミックスは、フォクシーレディによって粉々こなごなくだかれてしまった。

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