#854

フォクシーレディと対面したジャズ。


その目の前には、笑みを浮かべるフォクシーレディと彼女のことを守っている自律型の機動砲台が浮いており、ジャズへいつでも攻撃できるように銃口を向けている。


「その前に、これは見なさい」


フォクシーレディは組んでいた腕を解いて、右手のてのひらを開いた。


すると、空中にうずのような空間が現れ、そこから何か物体が出現する。


「また妙な兵器を出すつもりッ!?」


ジャズは持っていた電磁波放出装置――インストガンを構える。


インストガンの先に付いたナイフを突きつけると、フォクシーレディがその笑みのまま両方の眉毛を下げた。


「勘違いしないでよ。あたしはあなたが喜ぶものを出してあげただけなんだから」


「喜ぶもの? 何をふざけたことをッ!」


フォクシーレディのまるで小馬鹿にするような態度に、ジャズは顔を強張らせ、インストガンを持つ手に力が入る。


だが、現れた空間から出て来た物体を見た彼女は、両目を大きく見開いてしまっていた。


「ミ、ミックス……」


それは、マシーナリーウイルスに侵食しんしょくされ、機械のかたまりになりかけていたミックス·ストリングだった。


予想通りに狼狽うろたえたジャズの姿に、フォクシーレディは下げていた眉を上げて満足そうに口を開く。


「感動の再会といったところかしら?」


「あなたが……あなたがどうしてミックスをッ!?」


声を張り上げて訊ねてくるジャズに、フォクシーレディが説明を始めた。


ストリング帝国の陸上戦艦ボブレンにいたミックスは、ドクター·ジェーシー·ローランドという帝国の女科学者に管理されていたが。


帝国軍が撤退を開始したとき、そのどさくさにまぎれて回収したのだと、彼女は嬉しそう言う。


さらに顔を強張らせるジャズに、フォクシーレディは言葉を続ける。


「それにしても、面白い偶然だったわよね。まさか帝国の女将校が、秘密裏ひみつりに戦勝国でかくまわれた皇子様と出会うなんて、まるで映画みたいじゃない」


「あなたは、ミックスが帝国の皇子だって知っていたの?」


「そんな怖い顔しないでよ。あたしだって知ったのはここ最近なのよ」


フォクシーレディは、宙に浮いている四角い箱のようになったミックスにひじを乗せ、さらなる秘密を話し始める。


「あとこれも知らないでしょ? この子はマシーナリーウイルスの適合者――いえ、浸食に苦しむ人間だったわけだけど、ウイルスを適合させるために合成種キメラの核を埋め込まれているってこと」


合成種キメラの核……?」


動揺を越え、空中で呆然ぼうぜんと立ち尽くすジャズを見たフォクシーレディは、再び説明を始めた。

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