#834

地面に両膝をつき、その場にくっするシン。


彼の心は、再び現れたエレクトロハーモニー社のドローンの軍勢を見て折れてしまっていた。


だが、それでもまだ戦おうと一人向かっていくアンの言葉に、シンの内面では恐怖と自分への情けなさが大きく動き、グラグラと折れた心をらしている。


「俺は……弱いッ! 見てみろシン·レイヴェンスクロフトッ! あの女の……英雄アン·テネシーグレッチの姿をッ!」


シンはなんとか自分をふるい立たせようと叫ぶが、足がすくんで動かない。


臆病おくびょう軟弱なんじゃく、意気地なし――。


不甲斐ふがいない自分への罵倒ばとうは止まらず、それでも立ち上がれずにいた。


そのとき、土に頭をつけてふるえるシンの頭の中に、声が聞こえてくる。


《聞こえるか? 我が息子よ……》


「この声は……?」


その声の主は、シンの父親であり、永遠なる破滅エターナル ルーイン教祖イード·レイヴェンスクロフトのものだった。


イードは身体の震えが止まらない息子へ、おだやかな声で訊ねる。


《死ぬことが恐ろしいなら、今すぐその場から立ち去るといい。お前は十分に戦った》


優しく語りかけてくるイードに、シンは何も答えることができなかった。


ただ震えながら歯をみ合わせ、強くきしませるだけだ。


《そんな兄を見れば、妻もそしてダブも悪くは言わないだろう……。たとえ、むくわれなくともな……》


「報われない……だとッ!?」


イードの発した言葉にシンは突然顔色を変えた。


そして、父に向かって声を張り上げる。


「そうだッ! 俺は死ぬことなど怖くはないッ! 母と弟ダブの死が報われないことがえられないのだッ!」


そして、シンは立ち上がって叫ぶ。


「我が父イード·レイヴェンスクロフトよッ! このおろかな息子にあなたの力を与えてくれッ! 今ならわかる、わかるんだッ! あなたが人類を滅亡させようとしたことも、ダブが自ら死を選んだ本当の理由もッ! 俺は家族と、自分の命を懸けて救ってくれた者のために……戦わなければならないッ!」


《シン……お前は……》


「俺は何者でもないただまもりたいものがあるだけの男だ……。だから、お願いだ父上ッ!」


シンが天に悲願ひがんすると、突然彼の全身をまばゆい光が包み始めた。


「これは……?」


《この光は私のすべてだ。受け取れ、我が息子よ》


その光は、イードの故郷である時の領地タイム テリトリーに伝わる技術――。


かつてマスタークオがメイカに使用した伝承法ユーズ トラディションという術であった。


光を受け取ったシンの全身からは、凄まじいオーラがみなぎっている。


「今、父上の心が入ってきた……」


シンの目には涙があふれていた。


それは凄まじいオーラ共に、これまでのイードの記憶が彼の頭の中へ入って来たからである。


「父上……感謝します……」


そしてシンは流れる涙をぬぐうと、一人ドローン軍へと向かったアンの後を追いかけた。

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