#833

――上空からエレクトロハーモニー社のドローン軍団が降りてくる。


当然それを出現させたのは、死の商人デスマーチャントのフォクシーレディの能力――手の平から物体を出す能力――抹殺戯言キリングジョークの力だった。


「チェックメイトね。これにはさすがの英雄さんでもどうしようもないでしょ?」


ドシドシと歩いて来るドローン軍を背景に、フォクシーレディがアンへ笑いかける。


アンたちの兵たちは先ほどエレメント·ガーディアンをまとった宿命の戦車チャリオット オン デスティニーによって飲み込まれ、ブライダルとエンポリによって全員死亡。


メディスンらの援軍と合流したジャズたちの部隊は、まだ後方で戦っている状態である。


つまりは、ここにいる戦力のみで相手をしなければならない。


しかし、ブレイク、ブライダル、ソウルミュー、エンポリ四人はローズと戦闘中。


アンとシンの前には、フォクシーレディと現れたドローンの軍勢だ。


フォクシーレディが言うように、いくらアンが強くとも、この戦力差は埋められるものではなかった。


「どうしようもない……。こんな……こんなの無理だ……」


シンは、まだ空に現れた空間から降りてくる大量のドローンを見上げ、弱々しくつぶやいていた。


何をしようがこの絶望的な光景は変わらない。


もし、ここにいる軍勢をすべて倒したとしても、フォクシーレディはまだまだドローンを出してくるかもしれない。


もう何をしようが意味がない。


自分たちに勝ち目などないと、彼は握っていたサーベルを落としてしまいそうになっていた。


だがそんな彼の目の入ったのは、銃剣タイプのインストガンを持ったアンが、降りて来たドローン軍へと歩いて行く姿だった。


「おいお前ッ! まだ戦うつもりかッ!?」


シンはこの光景を見ても戦意を失っていないアンを見て、声を張り上げて訊ねた。


アンは振り返ることなく、背中を向けたまま彼に返事をする。


「当然だ。ここで諦めてどうする」


「だが、この状況で戦っても俺たちに勝ち目などないだろうッ!?」


「なら、このまま黙って殺されるか?」


アンに訊ね返されたシンの言葉が止まる。


そんな彼に、アンは話し続けた。


後ろではまだ仲間たちが戦っている。


ここで自分が退けば、ドローン軍は彼らのいる戦場へ行き、圧倒的な数で押し、確実にすべての味方が全滅する。


「そうさせるわけにいかない。戦意がないなら下がっていろ。私は一人でも戦う」


「どうしてだ……? どうしてだアン·テネシーグレッチッ!? なんでお前は折れないッ!? この状況で戦おうなんて、頭がおかしいのかッ!?」


声を張り上げたシン。


アンはその言葉でようやく振り向く。


「それが、一兵士である私にできる唯一ゆいいつのことだからだ」


無表情を崩し、まるで自嘲じちょうするような笑みを浮かべたアンは、シンに笑いかけると前へと走り出していった。


シンはそんな彼女の背中を見て、その場に両膝から崩れる。


「俺は……俺は……。クソォォォッ!」

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