#832

無限刀インフィニティソードを手に、ブレイクはローズへ向かって歩き始めた。


彼が歩きながら剣をさやから抜くと、そのかざり気のない鞘は光となって消えていく。


「本当におかしな剣だな。ひとつ私も振ってみたいものだ」


「お前じゃこの剣を使えねぇよ」


ローズへ冷たく言い返したブレイクは、そのまま剣を一振り。


まばゆい光の粒子が果実の種のように蒔かれ、ローズへと降り注いだ。


「またこの魔法のような攻撃か。いささか芸がないんじゃないか?」


ローズは手に持っていた両腕と下半身のないブライダルを盾にして、舞う光を振り払った。


盾にされたブライダルの身体に光が当ると、まるで無数の針に突き刺されたような傷口ができていく。


「ブライダルッ!? クソッタレッ!」


「それに、こっちは盾にできるお前の仲間がいるんだぞ。まったく少しは考えて攻撃しろ」


ローズはそう言うと、踏みつけていたエンポリから足を離し、彼の脇腹を蹴りあげた。


ボキッというにぶい低音が鳴り、エンポリは血を吐きながらブレイクの前まで吹き飛ばれた。


「挑発してんのか? 天下の将軍様がよう?」


そう言ったブレイクの後ろからは、ソウルミューが追いかけてきており、倒れたエンポリに駆け寄っていた。


ソウルミューは手持ちのガジェットはすべてローズに奪われたが、ジャケットの内側に仕込んでいた消毒液をエンポリへぶっかける。


ローズはそんなソウルミューを一瞥いちべつすると、ブレイクに答える。


「逆だな。くだらん挑発に乗ってやろうとしているのは、むしろ私のほうだ」


答えたローズは、持っていたブライダルの上半身から首を引き千切り、その首を、エンポリを介抱かいほうしているソウルミューへと放り投げる。


そして、残った彼女の上半身に電撃を流し、すべてを灰へと変えた。


「これでしばらくは再生できんだろう」


「うおぉぉぉッ!」


ブレイクが叫びながらローズへと斬り掛かった。


凄まじい斬撃が振り落とされたが、ローズはそれを受けずに身体を回転させ、避けながらカウンターのエルボー。


ブレイクの顔面に機械のひじが突き刺さる。


「ガハッ!」


鼻の骨が折れたのか、鼻の穴から血が噴き出すブレイクが後退すると、ローズはピックアップブレードの光の刃の突きを連打。


その身体を何度も焼き刺す。


ブレイクの手足や肩に穴が開けられ、突き刺されるたびに流れる血が刃の熱で蒸発じょうはつして血煙ちけむりを立てていた。


それでも亀のように身を固めているブレイク。


ローズはそんな彼を防御の上から蹴り飛ばす。


「もう終わりだ、ブレイク·ベルサウンド」


「まだだッ! まだ負けてねぇよッ!」


「無様な姿をさらしておいて、まだ戦うつもりか? お前では私には勝てない」


「たしかに、オレじゃお前に勝てないかもしれない……。でもよぉ、“オレたち”は絶対に負けねぇッ!」


傷ついた身体で吠えるブレイクを見て、ローズはため息をついて呆れていると、彼らのいる上空からうずのような空間が現れた。


そして、そこからはエレクトロハーモニー社の戦闘用ドローンの軍団が次々と降りてくる。


「どうやらフォクシーレディの援軍はまだいたようだな」


「まだ、こんなにいやがったのか……?」


空を見上げ、立ち尽くしてしまうブレイクに、ローズが声をかける。


「これこそ止めというヤツだな。さあ、終わりにしよう」

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