#835

――シンがアンに続いてドローンの大軍へと歩を進めていた頃。


メディスンたちがジャズたちの援軍に向かい、その基地に残されていたリズムは、まるで何かにみちびかれるように基地内のある場所へと向かっていた。


「なんでだろう……。行かなきゃって、絶対に行かなきゃって思っちゃってる……」


そうやって独り言を呟きながら、リズムは兵たちが出払った基地内を進み、目的の場所へとたどり着く。


強固な扉に閉じられた部屋――。


そこは、永遠なる破滅エターナル ルーインの教祖であるイード·レイヴェンスクロフトが幽閉ゆうへいされている部屋だった。


リズムがその部屋の前に立っていると、扉がゆっくりと開きだした。


そして、カツカツカツと頼りない足取りで部屋の中へと入っていく。


そこには、肩口から先がない――両腕がない屈強くっきょうな男が椅子いすしばり付けられていた。


その男の名は、イード·レイヴェンスクロフトだ。


「アタシを呼んだのは……あなたですか……?」


自分でも何故こんなことを訊ねているのか――。


理解できない様子の少女の声を聞き、イードがその閉じていた両目を開く。


リズムは世界を混乱におとしいれた男を前に、少しも恐れることなく彼の目を見つめていた。


イードはそんな少女を見ると、その口を開く。


「あぁ、私だ。ブルースの娘よ」


「なぜアタシなんかを呼んだんですか? いや、その前に一体どうやってここまでアタシを? ……それと、あなたはお父さんを知っているんですか?」


リズムの質問に、イードは答えなかった。


ただ彼女の目を見つめ、そして笑みを浮かべる。


「フフ、あまりブルースには似ていないな。だが、ここまで来るとは父ゆずりの才能を持ち合わせているようだ。……その才能がお前を苦しめることになると思うと、不憫だな……」


「どうして……どうしてあなたはアタシをここへ呼んだんですか?」


再び最初の疑問を投げかけたリズムに、イードはその笑みのまま返事をする。


「未来が見えたのだ……。お前の……これからの未来がな……」


お前の人生はこれからの選択次第で、凄まじい苦難をともなうものへとなるだろう。


もし平穏な生活を望むなら、自分の手に余ると思った事柄にはけして手を出さないことだと、まるで教え子に語り掛ける教師のような態度で話し続けた。


「アタシの未来……? あなたは一体何を……?」


リズムはやはりイードが言っていることが理解できないでいたが。


この男がうそを言っているようには思えないでいた。


彼女が唖然あぜんとしていると、突然イードの身体から光が放たれる。


「えッえぇッ!? どうしたのおじさんッ!?」


「時間が来たのだ。私が言ったことを忘れるなよ、ブルースの娘……」


そして、イードは笑みを浮かべると、その両目を閉じた。


やがて身体から放たれた光が止み、イードはその満足そうな笑顔のまま動かなくなってしまった。

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