#817

――飛んで来る無数の閃光を避けながら、アンはナノクローンへと先にナイフの付いたインストガンを突き刺す。


飛行装置――ジェットパックで宙を舞いながら飛び込んでいった彼女の姿に、思わず見惚みとれたシンも続き、慣れないサーベルでナノクローンへと斬り掛かっていた。


「あれがアン·テネシーグレッチか……。噂以上だな」


ナノクローンの頭部を破壊すると、シンの口からつい言葉がれる。


数では圧倒的に劣っているこちらが踏ん張っていられるのも、アンが戦闘用ドローンを味方に寄せ付けないからだった。


神具――聖剣ズルフィカールのない今のシンでは、とても以前のような力はない。


ただアンが仕留め損なった敵を、率いている者らと共に攻撃することしかできないでいた。


「だが、数が違い過ぎる。いつまで止めていられるか……」


アンの無双ぶりで忘れてしまいがちだったが、倒しても倒しても現れる敵の前に、シンは弱音を吐いた。


それに、向こうはドローン――機械なのだ。


こちらは生身の人間。


このまま戦い続けていれば力尽きることは目に見えている。


それに、いくらこの後にメディスンたちが援軍に来るとはいっても、相手の本隊はもう近くにいるのだ。


なんとかこらえられたとはしても、こちらはかなりの死傷者が出るだろう。


「考えが甘かったか……。だが、もしあいつがここいたら……」


シンは周囲にいる者たちに放たれたビームをサーベルで弾きながら思う。


父親であるイード·レイヴェンスクロフトへの憎しみだけで生きてきた彼は、ある少年との戦いでその意識が変わった。


少年の名はミックス。


以前に永遠なる破滅エターナル ルーインの教祖の息子として、神具の力を使って好き勝手に暴れていた自分を倒した者だ。


だがその戦闘最中に、ミックスは敵だった自分のために命を懸けて救ってくれた。


そのつぐないというわけではない。


けして、自分が善人になったわけではない。


今でも世界は憎いし、父イードも許せないし、自ら死を選んだ弟ダブのことを思うと胸が締め付けられるが。


「今自分ができることをやる……。悩むのはその後だろうな、フフ……」


思いがけず笑ってしまう。


昔のシンもよく戦闘中に笑っていた。


だが、それは自分の優位さと相手への嘲笑ちょうしょうから来るものだった。


この笑いは違う。


単なる自嘲じちょうだと、彼はドローンの攻撃から味方の者たちを守り続ける。


「アン·テネシーグレッチッ! 後ろのことは気にするなッ! お前の後ろには俺たちがいるッ!」


シンの叫び声に、味方の者たちからも笑みがこぼれる。


自分をふるい立たせるつもりで叫んだ言葉だったが、シンは自分でも驚いていた。


先ほど言葉は、以前の自分には考えられないことだと。


「俺も所詮は凡人だな……」


アンは彼らのことを一瞥いちべつすると、さらに動きを速めてドローンを打ち倒していった。


だがそんなアンの横をすり抜け、シンや兵たちを飛び越えていく影が見える。


「抜けられたッ!? さっき感じた奴かッ!? 」


アンが止めようとしたが、ナノクローンは彼女へと集中して襲い掛かって来る。


シンたちはすかざす援護。


その間に、その影はジャズたちがいるほうへと消えてしまった。

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