#816

――ローズとフォクシーレディの先鋒せんぽう隊であるエレクトロハーモニー社の戦闘用ドローン部隊は、ジャズたちがいる陣の目の前まで来ていた。


部隊を固めるドローンの名はナノクローン。


ナノクローンとは、エレクトロハーモニー社が造り出した人型の戦闘用ドローンであり、全高三.五メートル、重量二.二トンのスモールコーラスというビーム兵器を搭載された戦闘マシンだ。


無骨な金属装甲にブルーのカラーリングがほどこされ、先のべたビーム兵器以外にも肩や胸部に重火器が付けらカスタマイズされている。


その中には、明らかに違和感のある幼女の姿があった。


その幼女の名は、フォクシーレディの秘書であるシヴィルだ。


シヴィルは自分から先鋒隊を率いることを、社長であるフォクシーレディに願い出た。


それは、自分の姉妹とも呼ぶべき同僚――トライアングルとサードヴァーを殺されたからだった。


「全部、ジャズ·スクワイアとかいう人のせいだ……。シヴィルは……シヴィルは絶対に許さない」


ブツブツと独り言を口にする狙いは、トライアングルとサードヴァーを殺した眼帯の男――ベクターだったが。


元はと言えばエレクトロハーモニー社の製造工場にサーベイランス、ヘルキャット、アリアを送り込んだジャズに対しても憎しみを抱いていた。


シヴィルは、ジャズがサーベイランスたちを工場へ行かせなければ、ベクターが現れて二人が殺されることはなかったのだと考えていたのである。


彼女は普段戦闘用に身に付けた分厚いパワードスーツではなく、身体にフィットした全身をおおうボディスーツ姿だった。


武器などは特に持っていなかったが、突然その華奢きゃしゃな腕に白い鎧甲冑のような装甲が覆い始める。


「絶対に……絶対に許さないッ!」


――エレクトロハーモニー社のドローン部隊を確認したジャズたちは、すでに臨戦態勢に入っていた。


最前線の兵を率いて立つのは、マシーナリーウイルスの適合者であるアン·テネシーグレッチと、神具の加護を与えられた奇跡人スーパーナチュラルのシン·レイヴェンスクロフト。


そして、二人を後方から支援するのはジャズとベクターの部隊という編成が組まれている。


すでに敵のドローン隊は一斉にビーム兵器――スモールコーラスを放ってきていた。


凄まじい数の閃光と轟音が鳴りひびいて陣を襲うと、アンとシンは応戦するために前進していく。


「……この感覚。ローズじゃないな」


アンには、適合者の能力であるPersonal link(パーソナルリンク)通称P-LINKという力がある。


P-LINKとは、マシーナリーウイルスの適合者や合成種キメラ、さらに加護に受けた者同士の意思の疎通を可能かのうする力のことだ。


その力でアンは相手を感じ取り、ローズに以外にも特殊能力者がいるのかと、その無表情を歪めていた。


そして、それはジャズも――。


「なに……? 今のは……?」


「どうしたジャズ? ボケッとしてる場合じゃないぞ」


「すみません、ベクターさん」


シヴィルのことを感じ取っていた。

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