#818

その影の正体は、飛行装置――ジェットパックで飛んでいくシヴィルだった。


シヴィルは前線にジャズやベクターがいないことを知り、アンたちを無視して一人後方の部隊へと向かっていく。


「どこだぁぁぁッ! どこにいるぅぅぅッ!」


その身体は、すでに半分以上が機械化――装甲アーマードしており、機械兵オートマタになる寸前だった。


マシーナリーウイルスに適合しない者がなる典型的な症状だ。


どうやらシヴィルはウイルスを投薬などで制御し、なんとか自我をたもっている状態のようだ。


放たれる弾丸を避けながら、自分の行く手をさえぎろうとする兵たちを殴り殺していく幼女――。


トライアングルとサードヴァーを殺された彼女には、激しい憎しみに支配され、機械兵オートマタになる前から自我を失っているようだった。


「ベクターさんッ! 何か来ますッ!」


ジャズがこちらに向かってくるシヴィルに気が付いていた。


前線ではアンたちが戦っているが、後方にいるジャズたちもけして何もしていないわけではない。


正面をアンたちが守り、ジャズとベクターは側面から向かってくるドローン隊を相手にしている。


そのため、あり得ない方向から敵が現れにもあって、兵たちも浮足立っていた。


「いや、もう来ているな」


ベクターがそう呟くと、兵らを抜けてきたシヴィルが、彼らの前に辿り着いた。


「見つけた……見つけた見つけた見つけたぁぁぁッ!」


まるでえた肉食獣が獲物を見つけたときのような咆哮ほうこう


全身のいたるところに白い鎧甲冑のような装甲がおおい、その顔の半分もすでに人間の皮膚ではなくなっていた。


ジャズは、そんな機械化寸前の幼女の姿を見て唖然あぜんとする。


「こ、これはマシーナリーウイルス……? うそ……どうして?」


「ボケッとするなと言っただろうッ!」


ベクターが叫びながらジャズを突き飛ばすと、一瞬で間合いを詰めたシヴィルの拳が彼の腹部をつらぬいた。


「ベクターさんッ!? このぉぉぉッ!」


ジャズも周りにいた兵たちも、一斉にシヴィルへと銃を向ける。


だがベクターは、自分を守ろうとする彼女たちに向かって声を張り上げた。


「やめろッ! こいつに手を出すなッ!」


そして、腹に突き刺さった機械の腕を掴み、血塗れの幼女に向かって静かに声をかける。


「おい、俺が……憎いか?」


「うぅ……うぅぅぅわぁぁぁッ!」


もう完全に自我を失ったのか。


シヴィルは、ベクターの問いに返事はしなかった。


だが、ベクターはそれでも彼女に声をかけ続ける。

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