#815

――ローズがフォクシーレディと話をしていたとき。


ジャズとアンのもとには、ベクターが率いる援軍の第一陣が来ていた。


「予想通りといったところだな。早めに動いておいて正解だった」


「ベクターさんッ!? どうしてこんなに早くッ!?」


驚くジャズに、眼帯がんたいの位置を直しながらベクターが笑みを浮かべた。


どうやらベクターはジャズたちには知らせずに、ライティングたちを止めようとしていた彼女の部隊を追いかけていたようだ。


そのことはすでにメディスンに知らせてあり、これから本格的な援軍がやって来ると言う。


「それでも数は多くはない。だが、メディスンたちが来るまでは持ちこたえられるだろう。こっちにはアンと、あとあいつもいるからな」


そう言ったベクターの後ろには、右側のほおにトライバルな刺青いれずみが入った長髪の青年が歩いてきていた。


ジャズはその青年の姿を確認すると、彼に駆け寄る。


「シンッ! どうしてあなたまでッ!?」


「よくわからんが記憶が戻ったんだ。おそらく話していたお前の仲間たちが、神具の呪いを解いたんだろうな」


青年の名は、シン·レイヴェンスクロフト。


永遠なる破滅エターナル ルーインの教祖イード·レイヴェンスクロフトの息子であり、神具の一つ――聖剣ズルフィカールから加護を与えられた奇跡人スーパーナチュラルの一人だ。


シンは父親であるイードが行った儀式の影響で、自分の名前すらおぼえていなかった。


だが、今はもう以前の記憶を取り戻したようだ。


「じゃあ、ブレイクやブライダルたちはうまくやったんだね」


「俺の記憶が戻っているのが何よりの証拠だろう。プロコラットの奴はユダーティと昼寝してたから声をかけなかったが、多分あいつの呪いも解かれていると思う」


「ならリーディンやメイカ、ブレイクも……」


ジャズの顔がほころぶと、シンも彼女に笑顔を返した。


笑い合う二人に向かって、これからのことを話そうとベクターが声をかける。


「まずはこちら状況から話しておこうか。イーストウッドには、陸上戦艦から離れた帝国軍の動向を調べさせている」


ベクターはジャズたちのところだけでなく、部下のイーストウッドを使って本国へと戻ろうとしているストリング帝国軍を追わせているようだ。


「状況次第ではこちらに戻って来てもらうつもりだが、イーストウッドの奴には引き続きそちらを警戒してもらうつもりだ」


そして、エレクトロハーモニー社の軍は、おそらくはそのほとんどが戦闘用ドローンだろう。


さらにヴィンテージであるローズ·テネシーグレッチとハザードクラス――死の商人デスマーチャントのフォクシーレディ。


こちらの兵の数を考えると心もとないのはたしかだが、先ほども話したようにヴィンテージのアンと奇跡人スーパーナチュラルのシンがいる。


メディスンたちが到着するまで持ち堪えれば、こちらの勝ちだと、ベクターはジャズたちに説明した。


彼が話しているときも、ジャズはどこか心ここにあらずといった様子だった。


そんなジャズに気が付いたベクターは、彼女に向かって声をかける。


「ジャズ、こちらが望まなくとも向こうは襲ってくる。ここまでやってきたことを無駄にしたくないのならば、戦うしかない。それはわかるな?」


「はい……」


歯切れの悪い返事だったが、ベクターはそれ以上ジャズに何か言うことはなかった。


そして彼の指示のもと、これから来る敵軍にそなえるのだった。

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