#810

オルタナティブ·オーダーの襲撃――いや、組織の力を頼らずに、少数の仲間と戦闘用ドローンの部隊を率いて現れたライティングたちによって、ストリング帝国の本拠地だった陸上戦艦ボブレンは大打撃を受けた。


襲撃したライティングを初め、トランスクライブ、メモライズや、彼らが救出しようとしていた研究施設で捕らわれていた仲間の一人――ロウル·リンギングは戦死。


しかし、救出された他の者たちはウェディング共に脱出し、現在ローズは陸上戦艦の管理を任せていたジェーシー·ローランドから被害状況を聞いているところだった。


「居住ブロック以外はかなりのやられたようだな。しかも、グラフ·ゴードンスミス中将が独断でスピー·エドワーズとパシフィカ·マハヤを護衛に連れて本国へと逃げたのか。散々私をきつけておいて、危なくなったら逃げるとは、実に前線を知らん軍人らしい態度だ」


ジェーシーから状況を聞いたローズは、自分がこれまでグラフに良いように使われていたことに、思わず笑ってしまった。


帝国内での派閥争い――ローズ派対ノピア派といったものも、今思えばグラフを初めとする選民意識が強い者たちと、ノピア·ラッシクのような開国を意識していた者たちの戦いに、ただローズが担ぎ出されただけのことだった。


ローズはそのことを最初からわかっていたが、自分のある目的のためには、その立場を受け入れるしかなかったのだ。


「それと、もうお耳に入っているとは思いますが……」


ジェーシーは、ライティングを失ったオルタナティブ·オーダーが、ジャズを中心とする勢力のもとへと向かったことと――。


今まで協力的だった国や支配下にあった国などが、すべてこちらに応じなくなったことも説明した。


それと、世界中で起きていた大災害や、機械に取り憑き人々を襲う黒い光――エレメント·ガーディアンの姿も消えてしまったようだ。


それは、もはや世界の混乱を収めると言う理由で各国を蹂躙じゅうりんしていた帝国に、味方する勢力がもういないことを意味していた。


「ですが、それでもまだこちらにも手はあります」


だが、それでも彼女はまだ帝国にも巻き返せるチャンスはあると言う。


それは、この混乱を収めた動画に映っていた人間――。


ジャズ·スクワイアを仕留めることだと、ジェーシーは説明する。


「ジャズ·スクワイアの影響力を逆に利用するのです。もちろんすべてが好転するわけではありませんが、エレクトロハーモニー社のフォクシーレディもまだ私たちを支援すると言ってくれていますし、彼女さえ始末すれば……」


「……ジェーシー」


「はい、なんでしょうかローズ様?」


「お前には苦労ばかりかけるな」


ローズはそう言うとジェーシーのことを抱きしめた。


そして、戸惑う彼女に電撃を浴びせる。


「ローズ様……? ど、どうして……ですか……?」


「お前は生きて私の願いを叶えてくれ……。頼むぞ……」


それからローズは、気を失った彼女をソファに寝かすとデスクに置いてあった通信機器を操作する。


操作後、陸上戦艦内すべてのスピーカーに繋ぐと、彼女は一呼吸してからその口を開いた。


「これより私はジャズ·スクワイアの軍へ攻撃を仕掛ける。よって、ボブレンにいるすべてのストリング人は本国へ帰還せよ。これはストリング帝国軍将軍――ローズ·テネシーグレッチの直々の命令である」

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