#811

――ウェディングと帝国の陸上戦艦から救出された仲間を回収し、メディスンらがいる基地へと移動させたジャズたちは、まだ動くことなくいた陣に留まっていた。


その一つの軍幕にいたジャズに、アンが声をかける。


「いくら護衛のためとはいえ、戦える者を全員行かせてしまってよかったのか?」


アンは、この陣にいた者たちのほとんどを基地へと戻してしまったことについて訊ねた。


ジャズはアンにも一緒に行ってほしいと頼んでいたのだが、彼女はそのことを聞かずにこの陣に留まっていたようだ。


「もうここに帝国を迎え撃つだけの戦力はないというのに、何故君はここに残っているんだ?」


「それは……。ローズ将軍と話し合うためです」


「やはりそうか……」


アンは、ジャズの考えにそれとなく気が付いた。


だが、彼女はローズがジャズとの話し合いに応じるとは思わない。


だからこそアンは、この陣に――ジャズのもとに残った。


「やる前から否定的なことを言わせてもらうが、ロミー……いやローズはそういうことができる奴じゃない」


「そうかもしれません……。だけど、もう……戦う必要はないんです。だったら、最後まで諦めない……。そう、あたしは決めたんです」


ジャズの言葉を聞き、アンは思う。


追い詰められた軍というものは、死に物狂いで戦おうとする。


ましてや相手はあのローズだ。


たった一人になっても、命尽きるそのときまで反抗し続けるだろう。


ジャズは幼い頃から戦場に出ていて、その厳しさや話し合いが通じない相手がいることは知っているはずだ。


しかし、この甘さはどうだ。


彼女は生まれたときからずっと帝国で暮らしてきたというのに、ストリング人――いや、帝国軍人にあるまじき行為ではないか。


そう思っていたアンは、メディスン、ブラッド、エヌエーらから聞いていた、自分と同じマシーナリーウイルスの適合者の少年のことを思い出していた。


ジャズがバイオニクス共和国に来てから、ずっとその少年と電気仕掛けの仔羊ニコと暮らしていたということを。


きっとジャズのこういう甘さは、その適合者の少年の影響が強いのだろうと考え、思わず肩を揺らす。


「そういうところはストラに似てるな……」


「アンさん……?」


「いや、なんでもない。ちょっと古い友人のことを思い出しただけだよ」


アンはそう言うと、ジャズの肩にそっと機械の右手を乗せる。


そして、優しく微笑む。


「この、ほこりを被ったポンコツが役に立つかはわからないが、私も君に付き合おう」


「でも、これは単なるあたしのわがままで……」


「なぁに、ローズは私の妹だ。今まで避けてきた問題に、私も向き合わないといけない時期が来たのだろう。結果がどうなっても、君と最後まで共にいさせてくれ」


「アンさん……。ありがとうございます……」


それからジャズとアンは、この陣にいる自分たち以外のすべての者へ、撤退するように伝えた。

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