#808

――ジャズは、ストリング帝国へと少数で襲撃をしたライティングを止めようと、陸上戦艦ボブレンの側に陣を構えていた。


最初は、彼女とアンだけで行くつもりだったようだが、メディスンの助言もあり、簡易基地を設置できるほどの兵を連れての出発となったのだった。


陣の軍幕の一つで、偵察に行った兵から報告を受けるジャズとアン。


その報告の内容を聞き、ジャズの表情は晴天に雨雲が出て来たように暗くなったが。


いつものように感情的になったりはしなかった。


「そうですか……。ライティングたちは殺されたのですね……」


兵の報告によると――。


襲撃したライティング、トランスクライブ、メモライズは戦死。


さらに彼らを逃がすため、捕らわれていたはずのロウル·リンギングもその命を落としたことを知る。


そして、ライティングたちの目的であった――。


研究施設から救出された者たちを乗せた陸上艇は、すでに回収したことも聞く。


「内容を聞くに、その戦力でよく帝国の追撃を逃れられたな」


「……それで、その陸上艇に乗っていた人たちは?」


アンがポツリと呟くと、ジャズは陸上艇に収容された者たちの安否を訊ねた。


どうやら全員気を失っているだけで、今のところ異常らしい異常や問題はないようだ。


それから唯一ゆいいつ目を覚ましていた、いやただ一人帝国の追撃から生き残った人物については、人目を避けて休ませていることを聞かされた。


「ジャズ、会ってやるといい」


「アンさん……。では、ここはお願いしますね」


アンにそう言われたジャズは、その言葉に甘えて軍幕を出て行った。


――帝国軍からの追撃を逃れたウェディングは、その後にアンが放った偵察隊によって回収され、現在彼女たちの陣地内にいた。


(無様に生き残って……。あれだけ啖呵を切って別れた姉さんに会って……。私は何がしたいんだよ……)


軍幕で休むように言われていたウェディングは、これからここへ来るというジャズ·スクワイアに、どんな顔をして会えばいいかと考えると、心に重量物を付けられたようになっていた。


今でも自分がしたことが間違っていたとは思わない。


ライティングたちの義憤ぎふんに当てられ、神具の呪いで視力を失ったクリーンを守るために、そして捕らえられたリーディンたちを救出するために、これまでに数えきれないほど人を殺した。


ウェディングは世界を良くしたかった。


オルタナティブ·オーダーに参加し、力なき者たちを救いたかった。


大義などという大層な信念で動いたのではない。


ただ困っている人たちに、自分なら何かできると思った。


慕っていた先輩――ミックス·ストリングなら必ずそうしたはずだ。


だが、舞う宝石ダンシング ダイヤモンドの二つ名も、血にまみれ過ぎてすでにその輝きを失っている。


そして、生まれて初めて死の恐怖を味わった。


これまでにも敗北の経験はあった。


自分よりも格上の相手に、けして敵わないことも何度もあった。


しかし、ほぼ不死身の自分が死ぬと思ったのは、ローズ·テネシーグレッチを前にしたときが初めてだった。


「何がハザードクラスですか……。私は……私は……弱いぃ……」


弱々しく独り言を吐いたウェディング。


「ウェディング、あたしだよ。入るね」


彼女がうつむいていると軍幕の外から声が聞こえ、そして人が入って来た。

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