#807

そんな地面にいつくばって震えているウェディングを見下ろし、アバロンとコーダは怒りながら彼女に手を出すことを躊躇ためらっていた。


彼らは思ってもみなかったのだろう。


お世話になった上官を殺したハザードクラスが――。


数えきれないほどの同胞どうほうを切り裂いた化け物が――。


一度心をへし折られてしまえば、ただの少女だったということを。


三人も今年で十六歳。


ウェディングはそんな彼らよりも幼い。


ローズの親衛隊に選ばれ、かつてストリング帝国が持っていた騎士道精神を知覚えたアバロン。


同じく親衛隊となり、自分よりも弱い者に手を出すことを禁じたコーダ。


ウェディングに殺されたスピリッツ·スタインバーグから学んだその精神は、皮肉にもかたきである彼女に対し、足枷あしかせ――非常に邪魔なものとなってしまっていた。


退いてッ!」


いつまでも動かないアバロンとコーダを押しのけ、ネアが持っていたインストガンの出力を最大値まで上げた。


この設定の電磁波を喰らった生物は、全身の血液が沸騰ふっとうし、身体がブクブクとふくれ上がって弾け飛んで死ぬ。


だが、一度この設定にすると残りの弾数は二発までとなってしまう。


さらにはその二発を撃ち尽くすと、そのインストガンは二度と使用できなくなるため、使用者のほとんどが最大値などにはしない。


「二人ができないなら私がやるッ! 」


ネアは出力を上げたインストガンの銃口を、地面にちぢこまって震えているウェディングへと向ける。


彼女が何をされても元通りに再生してしまうことは、ネアも当然理解している。


だったらその身体を細切れの肉片へと変えて、元通りにできなくしてやると彼女は考えたのだ。


「アバロンもコーダも見ててッ! 私がこいつをッ! この化け物をッ! 今からぶっ殺すからッ!」


ネアがインストガンの引き金に指をかけたそのとき――。


突然彼女たちが飛び乗った陸上艇が、激しく揺れ始めた。


そして、艇体からアームのようなものがで現れ、アバロン、コーダ、ネアへと襲い掛かる。


「なんだこりゃッ!? 変な手が攻撃してきやがったぞッ!?」


「くッ!? 私たちが飛び乗ったことで、この陸上艇の防御システムが起動したのかッ!?」


まるで軟体動物のイカかタコか。


触手のような金属のアームが三人を陸上艇から引き離そうとし、さらにブラスターを放ってくる。


三人は、これはらないとジェットパックを起動させて空へと逃れると、陸上艇のエンジンが物凄いを音を鳴らし始めた。


「なんだッ!? 一体どうしたってんだよこいつはッ!?」


「見てッ! 陸上艇が行っちゃうよッ!」


気が付いたときにはすでに遅く――。


陸上艇はジェットパックでは追いつけないほどの速度で走り出す。


推進剤の残りも少なっていたため、三人はこれ以上の追跡を諦めざる得なくなてしまった。


「逃したか……」


三人は、去って行く陸上艇を眺めると、自分たちの本拠地――陸上戦艦ボブレンへと戻るのであった。

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