#806

インストガンの先に付いたナイフを突き出し、物凄い速度へウェディングへと突進するアバロン。


そして、その左右からは激しく気持ちをたかぶらせているコーダとネアも向かってきていた。


自分と同じくウェディングへと向かっていく二人の姿を見て、アバロンは思う。


予定と変わってしまったが、敵は一人でこちらは三人。


それと、今の舞う宝石ダンシング ダイヤモンドはローズ将軍に力で敗れ、さらには仲間を殺されたことで心をへし折られ、完全に意気消沈いきしょうちんしている。


これほどのチャンスはもう二度と回ってこないと。


「お前が斬り殺した何千何万のストリング人のたましい……。そのうらみの念がこの機会を作ってくれたのだッ!」


アバロンは咆哮ほうこうしながら、陸上艇の上に乗るウェディングへ突っ込んだが、彼女はまるで赤ん坊のようにって避ける。


避けられたアバロンはたくみにジェットパックを操作し、すぐに切り返してウェディングの前へと着地。


それとほぼ同時に、コーダとネア二人も彼と並ぶように陸上艇の上へと両足をつけた。


かたきを目の前にし、意気軒昂いきけんこうと攻撃するかと思われた三人だったが。


目の前にいるウェディングの姿を見て、その手を止めてしまう。


「なんだ……なんなのだその顔はッ!」


インストガンの先の付いたナイフを突きつけ、怒り狂うアバロン。


それはコーダもネアも同じで、声こそ荒げていなかったが、その表情から激昂げきこうしていることがわかる。


「あぁ……あぁ……」


三人が苛立った原因は、そのウェディングのおびえっぷりのせいだった。


だらしなく口を開け、目には涙をにじませたその姿は、年相応の少女が恐怖しているもの以外、何者でもなかった。


これまでオルタナティブ·オーダーのメンバーとして、何千何万のストリング帝国の人間を斬り殺してきた舞う宝石ダンシング ダイヤモンドは、そこに居なかったのだ。


「なんなのよ……。そんな顔を見せるなら……どうして戦場なんかに出てきたのよあんたはッ!」


しびれを切らしたネアがインストガンに付いたナイフで、ウェディングの足を突き刺した。


彼女は痛みで悲鳴をあげ、さらにその身をちぢめる。


その傷口からブクブクと泡が噴き出し始めており、しばらくするとすぐに治っていった。


それを見たコーダは、身を縮めているウェディングの頭を蹴り飛ばす。


「あれだけ人を殺しておいて、いざ自分が殺されるとなったらそれかよ……。ふざけてんじゃねぇぞ……なあ、ふざけてんじゃねぇぇぇッ!」


そして、蹴り飛ばして転がったウェディングに怒声どせいを浴びせた。


だが、それでも彼女は何も言い返すこともなく、当然反撃しようなどということもなく、ただ怯えて身を震わせるだけだった。

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