#803

ロウルはガッチリと固めていた防御を解くと、ローズへ声をかける。


「ローズ……。お前はいつまでこんなことをするつもりなんだ?」


「ほう、亀のように身をちぢめていたのを止めたかと思えば、今度は舌戦ぜっせんがお望みか?」


「女と言い争いをするつもりはねぇよ。いいから答えてくれ。お前はいつまでこんなことをするつもりなんだ?」


ロウルがそう言うと、ローズは彼の顔面に機械の拳を叩き込んだ。


だが、ロウルは防御も避けることさえせずに、彼女の攻撃をただ受け止める。


顔に拳がめり込み、鼻から血がダラダラと流れる。


だが、ロウルの眼光がんこうはそのするどさを失わず、けして後退もしなかった。


「“こんなこと”というのは、この一方的な状況のことかな?」


「ちげぇよ。俺が訊いてるのは、お前の真の目的だ」


ロウルは顔にめり込んだローズの拳を振り払うと、鼻から流れる血を手でぬぐう。


そして、彼女のことを見つめる。


「お前は、本当は世界なんかどうでもいいんだ……。この研究施設を使ってあることをしたかっただけなんだろ?」


「……黙れ」


ローズの表情が強張る。


これまで見せていた相手を嘲笑ちょうしょうするような笑みは消え、明らかに苛立った顔へと変わっていた。


ロウルは言葉を続ける。


「俺はわかるぜ……。なんせお前がやろうとしていることは、俺もずっと考えていたからな……」


「黙れと言っているッ!」


声に怒気を込め、拳を打つローズ。


ロウルは先ほど同じく、防御も避けることもなく、ただ彼女の拳をその顔で受け止めた。


「だけどな……。死んだ人間……終わった生命いのちはもう戻らない。どんな科学技術でも、どんな特殊能力だろうと、たとえ神の奇跡だろうと戻せない……」


「長く生きてるだけの化石が、それ以上喋るなッ!」


ロウルの言葉が図星だったのか。


ローズは彼を黙らせようと、これまでにないほど拳を何度も打ちつける。


だが、それでもロウルが防御することも避けることもなかった。


ただ向かってくる機械の拳をその顔面と身体で受け止め、話を続けるだけだった。


「クロム……グラッドストーンは……お前の大事な……人……だったもんな」


「うるさいッ! いい年した男が、女の情事にズケズケと口を出すなッ!」


休むことない連打のせいなのか。


それとも、言われたくないことを言われたせいなのか。


ローズは激しく息切れをしながら、その表情を歪めていた。


しばらくの間、ローズの感情的な攻撃が続いていたが、彼女がついに止めを刺そうと機械の腕から電撃を放出させた瞬間――。


「ぐッ!? なんだッ!? 頭が……」


突然、激しい頭痛に襲われた。

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