#802

身を固めるロウルへ、ローズはピックアップブレードを向けて斬り掛かった。


両腕をアルファベットのエル字のように曲げ、その大きく屈強な体をちぢめて身を守るロウルだが、光の刃の前では意味はない。


片手でブレードを振るローズに手も足も出ずに、ただ焼き切られるだけだった。


呪いの儘リメイン カース合成種キメラと二重の力を得たお前でも、病み上がりでは本領発揮とはいかんようだな」


ローズは余裕の表情でブレードを振り続ける。


それもそうだ。


ロウルは明らかに反撃しない――いや、できないのだ。


数か月もの間ドクタージェーシーに実験体とされ、さらにイード·レイヴェンスクロフトがおこなった儀式によって神具の呪い受けた。


そして、半身不随はんしんふずいとなっていた彼に、とてもローズのような強者と戦う力など残されているはずもない。


だが、ロウルは倒れない。


いくら白銀色の刃でその身を焼き切られようとも、彼の目から光が失われることはなかった。


決定打を与えられない状態が続き、さすがのローズも戦法を変え始める。


彼女はブレードを腰に収めると、機械化――装甲アーマードの腕を上げて身構えた。


オーソドックスなボクサースタイルのファイティングポーズだ。


「お前に合わせてやる。これで少しは反撃できるだろう?」


だが、ロウルは何も答えずに最初にローズと向き合ったときと同じく、その身を固くしているだけだった。


ローズは小手調べと言わんばかりに、ジャブを二発打つ。


目にも止まらぬ速度で放たれた拳が、ロウルのガードを抜けて顔面にヒットした。


「どうした? 見えているのに手を出さないのか? なら、今度は大振りで誘ってみるとしよう」


その言葉通り、ローズは大きく機械の腕を振り上げて右ストレート。


防御など気にせずに、頭を守るロウルの両腕へ、まるでするどやりのような一撃をめり込ませた。


痛みで思わず声をらしてしまうロウルに、ローズはファイティングポーズを解いてあきれてみせる。


「やれやれだぞ、ロウル·リンギング。女の誘いに何の反応を見せないとは、異性の扱いけた男と聞いていたが、どうやら単なる噂だったようだな」


「黙っているのもまた、女の扱いのコツだと思うぜ」


今まで何も喋らなかったロウルが、ここでようやく口を開いた。


ローズはそんな彼を見て、笑みを浮かべる。


「ほう。たしかにもっともな意見だな。では、好きなだけやらせてもらうとするか」


そして、再び攻撃を始めた。


ローズの閃光のような拳が、ロウルの固めた防御をくずそうとリズミカルに打たれる。


上げていたロウルの両腕が次第に赤く腫れあがり、皮がげて血を流し始めていた。


「だが、このままではお前は何もできずに死ぬだけだぞ。それでも黙っているだけなのか?」


ローズは訊ねながらロウルの腹部へとボディブロー。


今まで頭に意識が向いていたロウルの脇腹に、その機械の拳がめり込む。


口から血を吐き、身体がくの字形じなりとなるが、それでもロウルは――。


「少し……話をするか……」


けして、反撃する姿勢を見せなかった。

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