#804

そして、ローズはその痛みに顔を引きらせながら気が付く。


「こ、これは P-LINK かッ!?」


P-LINKとは――。


Personal link(パーソナル リンク)略称である。


P-LINKは、マシーナリーウイルスの適合者と合成種キメラ、さらに精霊の加護に受けた者同士の意思の疎通を可能する力。


どうやらロウルが自分で移植した 合成種キメラの細胞と、ローズの体内を巡るマシーナリーウイルスが共鳴をし、彼女に激しい不快感を与えているようだ。


「ローズ、現実を見ろッ! お前のしていることは、広大な砂漠に水を撒いてオアシスを作ろうとしているのと同じなんだぞッ!」


「その無礼な物言い……お前は私を誰だと思っているッ!」


「ローズ·テネシーグレッチ……。かつて世界を救った英雄……ヴィンテージの一人だッ!」


「わかっているのなら黙れッ! 呪いの儘リメイン カースとなり合成種キメラの細胞を己に移植したくらいで、私と同等になったつもりかッ! ロウル·リンギングッ!」


「立場で話してんじゃねぇッ! こいつはなぁ、年寄りからのなんてこたぁねぇアドバイスだッ! よく覚えとけよ小娘ッ! いくら罪を重ねようが、お前には心配してくれる人間がいるッ! 損得抜きで親身になりたがっている奴がいるッ! だから、お前はまだまだやる直せるってなッ!」


「気安いぞッ! この英雄ヒーロー気取りの化石がぁぁぁッ!」


声を張り上げたローズ。


そして、彼女の電撃をまとった拳がロウルの胸を貫いた。


そこからさらに稲妻いなづまがロウルの全身へと行きわたり、内側からその身体を焼き尽くす。


「なあ……ローズ……」


全身が黒焦げになり、蒸発した血液が血煙へと変わりながらも、ロウルはまだ生きていた。


だが、彼はローズへ手を出すことなく、実におだやかな笑みを向けていた。


「ベクターは……知ってるよな? もし、奴に会ったら……伝えといてくれよ……」


そう言ったロウルは、胸に突き刺さっていたローズの腕を無理矢理に引き抜くと、開けられた胸の穴に手を当てる。


凄まじい痛みに襲われているのだろう、表情は穏やかだが、時おり顔を引きらせていた。


「先に……親父のとこへ……行ってるってよ……」


そしてロウルは、笑みを浮かべ、立ったまま息を引き取った。


ローズは彼の笑顔を見て、機械化――装甲アーマードした状態を解く。


「ロウル·リンギング……。その名は忘れないでおいてやろう。この世界で、私の身を案じ、命懸けでしかってくれた数少ない者の一人としてな……」


それからローズは、立ったまま死んだロウルに背を向けて、研究施設を後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る