#793

それからライティングとウェディングは、さらに研究施設があるという区画内を進んでいく。


狭い道へと入ってしばらく飛んでいくと、そこにはエレベーターがあった。


工場にあるような簡易リフトだ。


二人はそれに乗って地下へと向かう。


「ここからはおそらく警備の者はいないはずだ」


ライティングがウェディングへそう言うと、エレベーターが止まる。


二人がエレベーターから降りると、そこには大きな扉があった。


その扉の側には電気錠の液晶があり、パスワードを入力しないと中へは入れないようだ。


「調べていた通りだね」


この扉を開けるには、少なくとも――佐官、または将官クラスの権限が必要だった。


だがストリング帝国の将軍であり、ライティングの上司だったノピア·ラッシクのIDを本人から知らされていた彼にとって、帝国のセキュリティなど意味を持たない。


ライティングはノピアのIDを液晶に打ち込むと扉が開く。


そして、ライティングとウェディングは扉の中へと足を踏み入れる。


扉の中には、いくつもの透明の器が並んでいた。


巨大な器の中は液体で満たされており、そこには人間が入っている。


その一つ一つには、男性、女性、子供から老人まで――年齢も性別も関係なく皆が裸だった。


眠っているのか。


それとも気を失っているのか。


まだ息はありそうだが、皆ぐったりと器の中でただよっていた。


「聞いてはいたが、実際に見ると吐き気がする光景だね……」


ライティングが表情を歪めてそう呟く、ウェディングも彼と同じように顔をしかめた。


二人は並んでいる透明な器の間を進んでいくと、当然部屋全体が揺れ始めた。


それは地震ではなく、この巨大な器に繋がれていたケーブルの振動と器本体の揺れだ。


すると、器の中の人間たちが身体を仰け反らせて苦しみ喘ぎ始めた。


叫び声こそ聞こえないが、皆苦痛で表情を歪めて器の中で暴れている。


その中には、身体が次第に機械化していく者もいた。


「ライティングさん、早く皆を出してあげましょう」


「あぁ、そうだね……」


ライティングが返事をして器を見回していると、その一つに見覚えがある人物の姿をあった。


彼はその器に駆け寄る。


「リーディンッ!」


その器に中には、神具である経典アイテルの啓示により呪いの儘リメイン カースとなった少女――リーディンがいた。


ライティングはリーディンの入った器にすがりついていると、ウェディングがそんな彼の背中を見てうつむいていた。


そのとき、二人の前にある人物が姿を現す。


「やはり狙いはここか」


「あなたはッ!?」


ライティングが驚愕きょうがくの声をあげ、ウェディングが身構える。


それは、現在のストリング帝国を束ねる女将軍――ローズ·テネシーグレッチだった。

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