#777
そして、今度は別のものが見え始める――。
「そうか……今のは……。はは、情けねぇな……。結局お前に助けられちまった……」
ソウルミューは、目の前に見えるもの対して乾いた笑みを浮かべた。
現れたのは彼が半分猫と呼んでいたシストルム。
ダブを
ソウルミューはシストルムを眺めながら、自分の情けなさに自嘲している。
「そんなことない。立派だったぞ」
そこへ懐かしい声が聞こえてくる。
ソウルミューは我を疑ったが、声をするほうを振り向くと、そこには――。
「親父……」
「私はお前のことも、そしてリズムのことも誇りに思う」
ソウルミューの父親――ブルースがいた。
彼は息子を称えた。
情けなくなんかない。
自分の知らない間にソウルミューもリズムも成長していたと、ブルースは誇らしいと思っていることを伝えた。
すると、再びソウルミューの目の前の光景が変わっていく。
そこには、生前の父と自分の姿があった。
ソウルミューは思い出す。
そう――。
ここはブルースが彼を助けるために死んだ場所。
硫化水素のガスが地面から噴き出ている地帯――サルファイド ゾーンの光景だ。
「今まですまなかったな。お前たちを巻き込みたくなかったとはいっても、それは私の都合で、父親としては最悪だという自覚はあったよ」
「なにいってんだよ、急に?」
「リズムを頼むぞ、ソウルミュー」
ブルースを覆っている光が徐々に弱くなっていく。
だが、ソウルミューのほうの光はそんなことはなかった。
ソウルミューは気が付いた。
ブルースの使う技は、体内にある生命エネルギーを放つものだ。
これまでの戦いも含め、自分の腹部を治療したことでもうブルースの
「おい、なにやってんだ!? さっきみてぇにまた父親ヅラするつもりかよ! お前が死んじまうだろ!」
「もうすぐ航空機が見えてくるはずだ……。少々乱暴なやり方だが、そこまでへお前を吹き飛ばす」
ソウルミューに肩を貸して飛び続けているブルースから、完全に光が消えた。
硫化水素のガスの充満する外に、保護具も無しの状態となる。
しかし、それでもブルース怯むことなくソウルミューの全身を光で覆い続け、飛行速度を落とすことなかった。
「最後まで何もしてやれなかったな……」
「やめろバカッ! 自分に
「だが、お前たちのことを……忘れたことは一度もない……」
「
「いつだって大切に思っていた……」
「おいなんだよッ! 嘘だろおい親父ッ! 嫌だ、こんなの嫌だぁぁぁッ!」
ブルースは泣き喚くソウルミューを空中で担ぎ直すと、そのまま彼に掌を当てて吹き飛ばした。
そして彼は光に包まれたまま、物凄い勢いで飛んでいく息子を満足そうな表情で眺めている。
「父さぁぁぁんッ!!」
――その映像は、嫌っていた父親が自分の命を捨ててソウルミューを助けようとしたものだった。
「父さん……」
ソウルミューがそう呟くと、シャン、シャンという金属がぶつかる音が聞こえてきた。
それは古代時代にありそうな襟飾り付けた、顔から全身にかけて灰色と黒の半分の毛色をしている猫――神具シストルムが楽器へと姿を変えたときに鳴らしていた音だった。
「そうか、半分猫……。ありがとよ……」
ソウルミューがその音へ礼を言うと、彼を包んでいた光が消えていく。
そして、目の前にいたダブの姿も次第に見えなくなっていった。
「ダブ……。お前が
ソウルミューが消えていくダブに泣きながら微笑むと、彼もまた涙を流して、嬉しそうに笑みを返すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます