#752

――製造工場内へと侵入したサーベイランスは、身体に内蔵してある反重力装置アンチグラビティで宙へを飛びながら奥へと進んでいた。


この建物はすべてオートメーション化されているようで、工場というわりには作業をする人の姿は見えず、警戒することなく侵入できていた。


「あいつらもなかなか役に立つじゃないか」


動いているコンベアや、それで流れていく兵器の部品の横を飛びながら、サーベイランスが感心している。


こうやって問題なく工場へと入れたのは、アリアが一時的に建物内のセキュリティーを停止させたからだった。


その後に通信が入り、アリアはヘルキャットと共に制御室でここのシステムを掌握しょうあくしたようだ。


彼女たちは遅れて工場へと侵入したというのに、これだけ早く制御室を見つけ、そしてコントロールしていることを考えると、さすがのサーベイランスも二人の実力に舌を巻くしかなかった。


サーベイランスが向かっているのは、ここで造られている兵器の発注データが管理してある場所だ。


すでに工場内の地図はアリアから送られてきており、彼女は今頃ヘルキャットと共にここから脱出しているだろう。


「さて、後は私の仕事だな」


サーベイランスはそう呟くと、さらに飛ぶ速度を上げていった。


途中にあった電子錠でロックされていた扉も、ヘルキャットが工場のシステムから解いた暗証番号のおかげでスムーズに通過できる。


発注データがあると思われるのは、工場の最深部である管理室だ。


現在のこのペースなら残り数分でデータを回収できる。


サーベイランスがまたも呟く。


「ラムズヘッド……。私はあいつを知っている……。だが、どうして知っているのかが思い出せん……」


サーベイランスは、ライティングとジャズが会ったときにいたエレクトロハーモニー社の男――ラムズヘッドに見覚えがあった。


世界最大の科学技術で造られた人工知能を持つ自分が、物忘れなどあり得ないのだが、彼はどうしてもそこの記憶がハッキリとしない。


だが、サーベイランスはラムズヘッドから何か不穏なものを感じ取っていた。


その不穏なものと、自分のあやふやなメモリーを確かなものにするために、サーベイランスこの製造工場へと来た。


そして、それは世界の混乱を収めるためにも必要なこと――。


エレクトロハーモニー社のたくらみをあばくためでもあった。


エレクトロハーモニー社は、表向きでは利益を出さねば出資と補給してやれないため、ストリング帝国など好戦的な国にも兵器を売っているが。


その実、オルゴー王国のような中立国にも支援しており、オルタナティブ·オーダーも含め、ほぼ世界すべての国々に戦える力を与えている。


つまりエレクトロハーモニー社は、自分たちの利益のために、永久に戦争をするように仕向けているのだ。


当然、そのことに気が付いている者もいるだろう。


だが、自国を守るためにはエレクトロハーモニー社から兵器を受け取るしか道はないのだ。


「だが、奴なら……ジャズ·スクワイアなら」


サーベイランスは、エレクトロハーモニー社がしていることをジャズに公表させ、世論を味方につける考えだった。


どの国も同じ状態なのだと――。


守るために武器を手に取っているのだと知れば、少なくとも戦いを望まない国なら話し合いの姿勢をみせてくれるだろう。


そこで、世界への影響力を手に入れたジャズが、かつての英雄――ヴィンテージであるアン·テネシーグレッチと共に語りかければ、この混乱を止めることができる。


大災害やエレメント·ガーディアンのほうはブレイクたちに任すしかないが、少なくともこれが現状から考えられるサーベイランスの策だった。


そして、サーベイランスは管理室へと辿り着く。


室内にあったコンソールを操作し、セキュリティを解く。


「あった。エレクトロハーモニー社の発注データだ。これさえあれば」


サーベイランスが内容を確認し、データを回収しようとしていたそのとき――。


「あれ? なんかオモチャが大事なデータを見ちゃってるよ」


彼の後ろから三人の少女――トライアングル、サードヴァー、シヴィルが現れた。

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