#748

――サーベイランス、ヘルキャット、アリアが乗るジープは、荒れ狂う嵐の中を走っていた。


悪天候による大雨のせいで、ジープ内にも雨粒が車体に当たる音が鳴っている状態だ。


「もうすぐ到着だ。誰かに気付かれる可能性を考慮こうりょして、この辺で車を停まっておこう」


助手席――アリアのひざの上からヘルキャットへそう言ったサーベイランス。


ヘルキャットはチョコンと相棒の膝乗る機械人形を一瞥いちべつすると、クスッと笑みを浮かべながらジープを停車させる。


「いちいち笑うな。私も好きでここに座っているわけじゃない」


「いや、笑ってなんかないわよ」


片手を顔に当てながら、えるよう返事をするヘルキャットを見て、サーベイランスはムスッとしながらも話を始めた。


ここからは先はエレクトロハーモニー社の敷地内になる。


見たところ周囲には舗装ほそうされた道路とそこに並ぶ街灯しかないが、それまでなかったこのあかりにはセンサーがあり、誰かがエレクトロハーモニー社の製造工場へ向かえばわかるようになっている。


だからここからは道路から外れて獣道を進み、ジープで行けるところまで行き、途中からは歩いて製造工場を目指す。


「雨に濡れるが、そこは我慢してもらうぞ」


「それくらいなんだってのよ。こう見えても私たちは軍人だったのよ」


サーベイランスの言葉に、ヘルキャットが小娘扱いするなと返すと、彼女に続いてアリアが口を開く。


「それよりもサーベちゃんのほうが雨で濡れちゃったら不味まずいのではないですか?」


「サ、サーベちゃん……? おい、アリア·ブリッツ……。その呼び方はなんだ?」


「いや、そっちのほうが可愛いと思ったんですよ。ちゃん付けって可愛いでしょ?」


サーベイランスは思う。


そういえばこの長身の娘は、ジャズ·スクワイアのことをジャズちゃんと呼んでいた。


まさか自分までちゃんを付けて呼ばれる思わなかったサーベイランスは、機械の顔を歪めて苦い表情をしながらもアリアを止めるように言うことをあきめる。


それは、そんなことをしてもまた面倒臭いやり取りをする羽目はめになる上に、どうせ止めてはくれないと思ったからだった。


「まあいい……。そうだ、一応答えておこう。私の身体は防錆コーティングをしてあるから、雨くらいなら問題ない」


「そうなんですか? 玩具おもちゃみたいな身体なのにスゴイですね」


「お、玩具……。確かにそうだな……」


アリアの言葉にいちいち呆れつつも、サーベイランスはヘルキャットにジープを再び走らせるように言った。

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