#749

サーベイランスたちを乗せたジープは、舗装ほそうされた道を外れて悪路を走る。


悪天候というのもあって進むのに気を遣う道だったが、エレクトロハーモニー社の監視に見つからないためにはしょうがない。


「軍人とはいえ、ずいぶん運転に慣れているな」


アリアの膝の上――助手席からハンドルを握るヘルキャットにそう言うサーベイランス。


機械人形の言葉に、小柄な少女ヘルキャットはニカッと笑みを見せる。


「車の運転だけなら、ストリング帝国でもトップクラスだよ、私は」


「ヘルキャットは軍学校時代から、あらゆる乗り物の操縦が上手だったんですよ」


得意気に言うヘルキャットに続き、アリアが彼女のことをさらにめた。


ヘルキャットはそんなアリアのことを褒め返す。


「そういうアリアなんて、近接戦闘なら学年ナンバーワンのジャズよりも上だったじゃん」


「でも、ジャズちゃんは総合評価が優秀過ぎて……」


「そうだったよね。私らも結構ねたまれること多かったけど、ジャズは学校で憧れられるのと同じくらい嫉妬しっとされてたもんね」


ヘルキャットとアリアの会話を聞いてサーベイランスは思う。


どうやらこの長身と小柄のコンビは、あのサイドテールの少女――ジャズ·スクワイアと共に学校で優等生のグループだったのだと。


そして、何故アリアはヘルキャットのことをちゃんを付けて呼ばないのかも気になったが、また面倒で長い話になると考え、訊ねるのを止めた。


(まあ、幼なじみだからとかで、今さら呼べないとかだろう。わざわざ訊く必要もない)


サーベイランスはそう思いながらも、自分がずいぶんと人間臭くなってきていることに驚いていた。


正直、前の自分は能力の有無くらいしか気にならなかったというのに、こんなくだらないことを考えるようになってしまっている。


これは、良いことなのか――。


態度には出さなかったが、サーベイランスはそんな自分の変化に戸惑とまどっていた。


「うん? どうしたんですかサーベちゃん?」


ちゃんを付けて呼んで来るアリアに、サーベイランスは何でもないと伝えると、ヘルキャットがブレーキを踏んでジープが停車。


ここまでもすでに木々や草でおおわれた道だったが、ここから先は車での進行は難しそうだった。


「よし。では準備ができ次第、車から降りて進むぞ」


サーベイランスの言葉を聞き、ヘルキャットとアリアがジープに積んでいた武器やガジェットを身に付けていく。


皮肉にもそれらは、エレクトロハーモニー社製のものラムズヘッドからゆずられたものだった。


「これって全部最新のやつじゃないですか?」


「よくこんなの用意できたわね」


二人は用意されていた武器を手に取って驚いていた。


それは、世界が大災害やエレメント·ガーディアンの脅威きょういさらされている状況で、これだけ質の高いものをそろえるが難しいからだった。


サーベイランスはそんな二人に言う。


「雨具を身に付けるのも忘れるな。風邪でもひいたら大変だからな」


「あら、私たちのことを心配してくれてるの?」


ヘルキャットが意地の悪い笑みを浮かべて言う。


サーベイランスは無愛想に言葉を返す。


「体調不良は作戦にダイレクトに支障が出るからな。そのための当然の心配だ」


「ですよね」


そんな機械人形に言葉を聞いて、アリアがその顔を引きらせていた。


サーベイランスは二人に言う。


「ここから会話は全て通信でおこなう。さあ、エレクトロハーモニー社が何を企んでいるのかあばくぞ」

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