#747

――ジャズがサーベイランスが撮り溜め、メディスンが編集した動画を見せられていた頃。


そのサーベイランスは、ヘルキャットとアリアと共に、ジープに乗ってエレクトロハーモニー社の兵器工場へと向かっていた。


すでに場所を特定していたサーベイランスは、ハンドルを握っているヘルキャットへ道先を指示していた。


そしてサーベイランスは次に、呆れながらアリアに声をかける。


「……なあ、ちょっと訊きたいことがあるんだが」


「なんですか?」


ヘルキャットのいる運転席の隣――。


助手席に座っているアリアがサーベイランスの質問に首をかしげる。


「なんでお前は、私を抱いているんだ?」


助手席に座るアリアは、サーベイランスの小さな身体を自分のひざの上に乗せていた。


サーベイランスは最初からヘルキャットをナビゲーションするために助手席にいたのだが、何故かアリアは彼を抱いて強引に席についたのだった。


「なんでって、こっちのほうが納まりが良いんですよ」


「アリア·ブリッツ……。私は愛玩具ではないぞ……」


呆れているサーベイランスと、彼を抱いているアリアを見て、ヘルキャットが言う。


「諦めなさい。アリアは普段は大人しいけど、一度決めたことはぜぇ~たいにゆずらないんだから 。この子は昔からこうなのよ 」


「譲らないって……。そんなのヘルキャットに言われたくないです」


「なによその言い方ッ!? だいだいあんたはあのときだってねッ!」


言い争いを始めるヘルキャットとアリア。


そんな彼女たちに挟まれて、サーベイランスがポツリと言う。


「……もういい。好きにしてくれ……」


――サーベイランスが諦めてガクッと肩を落としていたとき。


ブレイクはブライダルが運転するオートバイの後部座席に座っていた。


二人が乗るオートバイにはサイドカー付いており、その側車そくしゃにはイードに言われて道案内することになったエンポリ·アルマーとベロベロに酔っ払って寝ているソウルミュー二人が窮屈きゅうくつそうに押し込められている。


「どうよ私の運転は? 風になった気分でしょ? まあ、運転免許なんて持ってないけどね~」


「なら、どうして運転できんだよ?」


ブレイクが訊ねると、ブライダルは待ってましたとばかりにその口角を上げた。


そして、さらにバイクを加速させ、サイドカーに乗っていたエンポリが驚愕きょうがくの声をあげる。


「おいスピードの出しすぎだッ! もっと安全運転で行けよッ!」


ブライダルはそんなエンポリを無視してブレイクの質問に答える。


「そりゃイイ女のたしなみってやつだよ。峰不二子なんかもそうだし~、セルティ·ストゥルルソンやリスベッド·サランデルなんかもそうでしょ? ありゃ? でもセルティはデュラハンだっけ? でもイイ女だから人間じゃなくてもいっか。私も似たようなもんだしね」


「峰不二子はなんとかわかるが……あとのヤツは誰だよ……」


「おぉ! まさかブレイク兄さんがルパンを知っているとはッ!」


「魔性の女の先駆的ポジションになったキャラクターだろ? 昔にロウルのおっさんから聞いたことがある」


「おぉ! さすが共和国が選んだ最も優秀な人間だね~!」


「いや、ハザードクラスは関係ねぇだろ……」


「細かいことは気にしな~いッ! さあ、もっとかっ飛ばすよ!」


そして、ブライダルはさらにスピードを上げていく。


サイドカーでは、こんな状況でも眠っているソウルミューと、叫び続けているエンポリがいた。


「うわぁぁぁッ!? だから速すぎるんだよッ! もっとゆっくり走れぇぇぇッ!」


だかエンポリの叫びも空しく、ブライダルが速度をゆるめることはなかった。

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