#738

顔の右側のほおに見えるトライバルな刺青。


間違いないシンだと、ジャズはイードに向けていたインストガンを下ろして、彼に駆け寄った。


だが、シンは身構えて激しくけ反る。


その態度は、知らない人間が突然距離をちぢめてきたときのようだった。


「なんだよあんたらッ!? うちに金目のものなんてないぞッ!?」


「なに言ってるのシンッ!? あたしだよ! ジャズ·スクワイアだよッ!」


「ジャズ·スクワイア……。ってことは……お前が俺と一緒に父上と戦ったっていう……」


「だからなにを言ってるんだよッ!?」


どうやらシンは、ジャズたちのことを強盗か何かだと勘違いしたようだ。


だが、いまいち会話がかみ合わない。


それはシンの態度が、まるでジャズのことを初めて見るかのようだったからだ。


しかし、彼女の名を聞いて反応はしているので、ジャズはますますわからなくなる。


「神具の影響か……」


「えッ!?」


サーベイランスがそう言うとジャズが彼のほうを振り返った。


サーベイランスはあくまで予想だと前置きしながら自分の考えを話す。


「シン·レイヴェンスクロフトも奇跡人スーパーナチュラルだったと聞いていた。なら、彼も神具暴走の影響を受けているはずだ」


「じゃあ、シンが失ったものってッ!」


「おそらく、記憶だな。その様子を見るに、彼本人も自分が何者かわからないほどの重度なものだろう」


サーベイランスの予想を聞き、倒れていたイードが立ち上がった。


ジャズはすぐに彼に銃口を向けるが、サーベイランスが必要はないとばかりに彼女を止める。


イードが口を開く。


「その通りだ。だが、息子にはすでにすべてを伝えてある」


イードが言うに、ある日に偶然エンポリがシンを見つけ、この小屋へと運んできた。


目覚めたシンには、サーベイランスの予想通りにそれまで記憶がなかったようで、イードは息子にこれまでのことを伝えた。


自分がテロ組織という宗教団体――永遠なる破滅エターナル ルーインの教祖であり、シンがその息子であること――。


ダブという弟がいたこと――。


そして、ミックス·ストリングに敗れ、その後に彼らと協力して父を倒そうとしたことなど、すべて話した。


イードがそうジャズたちに伝えると、シンは申し訳なさそうに口を開く。


「何もかもがいきなり過ぎるんだ……。目が覚めたら母も弟も死んだと聞かされ、おまけに父親を殺そうしたって言われて……。それでも……なにも感じなくて……」


「シン……」


「なぁ、俺は何をしたらいい? 教えてくれよ……」


シンは、感情をどう発すればいいのかわからずに、ただうつむきながらその身を震わせている。


彼は泣きたくても泣けないのだろう。


記憶があったときのように父を殺せばいいのか。


それともここで世話になった父を守るべきなのか。


どちらも選べずに、ただ動けないのだ。


ジャズは床を見つめるシンに寄り添ったが、何も言うことはなかった。


そして、それはこの場にいる者すべてが同じだった。

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