#713

部屋の中にいても聞こえてくる叫び声。


宮殿にいた兵たちや使用人らの慌てた様子が見えるような、そんな恐怖の声だった。


どうやらこんなときに、今まで行動を起こさなかったレジーナが宮殿を襲撃してきたようだ。


「行きましょう。“あたしたち”の出番だよ」


ジャズは涙を拭うと、泣き顔を切り替えて扉を開けて部屋を出る。


ブライダルとサーベイランスは彼女の後に続く。


「そうだね~。“私たち”呼ばれるもんね~。早く行かなきゃ」


「呼ばれてはいないがな。まあ、“私たち”の出番だ」


ブライダルが軽口を叩くと、サーベイランスがいつもの調子でそれに合わせる。


ジャズは振り返って皆に頭を下げると、その口を開く。


「みんな、ありがとう。またあたしに協力してッ!」


そして、声を張り上げた。


ブライダルは笑う。


「そういうこと言うのって、死亡フラグ立っちゃいそうだから止めときなよ、姉さん。まあ、私は死亡フラグクラッシャーを目指しているから、そんなもんいくらでもへし折っちゃうけどね~」


「出たな。また意味の分からないブライダル語が」


「おいおい、ブライダル語ってなによ? あッでもいいかもねそれ。読んでくれている人たちから見たら当たり前の単語だけど、ここじゃ私しかわからんし。いっそブライダル語辞典とでもいって販売しちゃおうか。もちろんリスクを考えて電子書籍でね」


「フン、ふざけていられるのも今のうちだ。時間ができたら私がお前の頭の中を解析してやる」


「そりゃ楽しみだね。あんたが第四の壁を認識できるようになったら、ディオの能力を知った承太郎みたいに、私の世界に入門できちゃうかも」


サーベイランスとブライダルがそんな話をしていると、ジャズが皆に指示を出し始める。


「はい、そんな話は後だよ。サーベイランスは宮殿内の非戦闘員の避難をお願い。あなたなら内部の人と親しくしてたからやりやすいでしょ」


「了解だ」


次にブライダル。


「ブライダルは侵入してきたレジーナ王女の部隊の足止めをお願い。ただし、殺しは無し。できる限りでいいから宮殿に入った連中を止めておいて」


「また面倒くさい注文を……。へいへい、わかりましたよ~。あッ、でも殺さなきゃ何してもいいんでしょ?」


「余程のことがない限りは手足の切断も、後遺症が残るようなケガもさせちゃダメ。大丈夫、あんたならできる」


「え~そんな~。まあ、文句言いつつもやるけどね」


ブライダルがヘラヘラと笑いながら返事をすると、ジャズはニコにも声をかける。


「ニコはソウルミューのことをお願い。扉を閉めてあたしたち以外の人を部屋に入れないようにして。あたしはリュージュ女王を護衛する」


声をかけられたニコは、背筋をビシッと伸ばして敬礼する。


ジャズはそんな電気羊を見て微笑むと、その表情を真剣なものへと切り替えた。


「各自しっかりと自分の役割を果たしてね。それじゃ戦闘開始ッ!」

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