#712

ジャズは顔を上げると、その表情を強張らせていた。


ニコは視線を合わせる彼女とサーベイランスを交互に見ては、不安そうにしている。


「……サーベイランス。あんたはできないことを言う奴だった?」


「できるできないの話はしていない。私はお前がどうしたいかを訊ねているんだ」


サーベイランスの返答に、ジャズはさらに顔を歪めた。


だが、サーベイランスの言葉は止まらない。


「それにお前は、叔父の死から立ち上がってからまだ何もしていない」


叔父の死。


ジャズは、永遠なる破滅エターナル ルーインの教祖イード·レイヴェンスクロフトが起こした儀式によって世界が大災害とエレメント·ガーディアンに襲われたとき――。


叔父であるブロード·フェンダーのよって助けられた。


だが、その後に彼女は一年間眠り続け、その間にブロードは彼女を助けたときに負った傷で亡くなっている。


「叔父さん……」


ジャズはブロードの形見である、普通の人間がマシーナリーウイルスの適合者と同じ力を得るための腕輪バングル――効果装置エフェクトを見つめる。


叔父の遺言が入ったホログラムで彼の言葉を聞き、再び立ち上がった彼女。


だが現実には世界を救うどころか、弟のジャガー·スクワイアや、大事な後輩クリーン·ベルサウンドを犠牲にしてしまっていた。


ジャズはその身を震わせながらサーベイランスへ言う。


「なんで……。なんであんたはあたしにそこまでこだわるの……。世界の混乱を収めたいなら、アンさんでもライティングでもローズ将軍のところへでも行けばいいじゃないッ! あの人たちのほうがあたしなんかよりもずっとうまくやれるよッ!」


「なんだ? 伝えていなかったか?」


酷く震えているジャズとは逆に、サーベイランスはその落ち着いた態度を崩さずに答える。


「私はな。お前とこの世界の混乱を収めたいのだ」


「サーベイランス……」


迷いなく言い切ったサーベイランスに、ジャズは言葉を失った。


だが、ニコは「今さら何を言っているの?」と言いたそうに鳴いている。


そのとき、部屋の中に誰かが入って来る。


頭のてっぺんから伸ばしたポニーテールと、童顔で小柄なトランジスタグラマーな体型をした少女――ブライダルだ。


「ねえ、サーベイランス。その“私”ってのは、当然このブライダルちゃんも入っていいよね?」


「あぁ、悪かったな。“私”ではなく“私たち”だった」


サーベイランスが抑揚よくようのない口調でそう返事をすると、ブライダルが二ヒヒと笑う。


「つーわけで、私もジャズ姉さんと世界の混乱を収めるよ~。目指せ、世界征服ッ!」


「バカ……。それじゃさらに混乱しちゃうじゃないの……」


そう言ったジャズは、目の前にいるサーベイランスとブライダルを見て涙を流していた。


ここまで支えてもらっていて、自分は何を勝手なことを言っていたのだろう。


こんな何の力もない自分に、彼女たちは手を貸してくれているのだ。


それを――。


そんな気持ちを――。


受け入れずに怒鳴ってばかりでは失礼ではないかと。


ジャズは、嬉しさと情けなさで涙があふれ出てしまっていた。


サーベイランスが言う。


「いちいち心を乱すなと言っただろう。さっさと涙を拭え。そして、これからどうするかを決めるんだ。たとえお前が何度も間違えようと、“私たち”はお前と共に世界と戦う」


「わかってる……わかってるよ……。でも、こんなの無理だよぉ……」


「まったく……。やれやれだ」


呆れるサーベイランスと笑うブライダル――。


そして、泣いているジャズを見たニコは、その短い両手を上げて大きく鳴いた。


部屋にニコの力強くも優しい鳴き声が響いたとき。


突然、外から宮殿の者たちの張り詰めている声が聞こえてくる。


「レジーナ王女が宮殿に現れたぞッ! 全員リュージュ女王を守れッ!」

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