#711

ジャズたちが部屋に戻ると――。


ワインの瓶を抱いたまま、椅子の背もたれに寄り掛かって寝ているソウルミューの姿があった。


ニコはそんな彼に気が付くと、風邪をひかないようにと毛布をかけた。


「ニコはいつも優しいね」


ジャズはそんなニコに優しく声をかけた。


ニコは少し照れながら、「そんなことないよ」と言わんばかりにその短い手を振っている。


ジャズはそんなニコを見て、この電気仕掛けの仔羊のおかげで、自分がどれだけ救われているのかを考えてしまう。


「ダブ……。あぁ……ダブ……」


「また同じ寝言か……」


ソウルミューの泣き言のような寝言を聞き、サーベイランスが呆れている。


彼はジャズたちと再会して――宮殿に招かれてから数日経ってもずっとこの調子だ。


目が覚めれば、まるで自分の意識を破壊するかのように酒を飲む。


そして、自ら命を絶ってしまったダブ·レイヴェンスクロフトのことを思って泣くだけだ。


「では、話を始めるとするか」


「わざわざ人目を気にするくらいなんだから、余程のことなんでしょうね?」


先ほどよりはマシになっていたが、ジャズの言い方は刺々とげとげしいままだ。


そんな彼女にうんざりしながらも、サーベイランスはアン·テネシーグレッチからの報告を話し始めた。


アンは、ヘルキャットとアリアらこれまでジャズたちが助けてきた町の住民たちと共に、無事にメディスンやアミノたちがいる地下基地へと到着。


それから資材や物資をかき集め、全員でアンが住んでいるところへ移動したようだ。


その話を聞いて、ジャズは眉間みけんしわがさらに深くなる。


それは、この程度の内容なら、廊下で話してもさほど問題はないと思ったからだ。


「それだけ? だったらさっきの場所でも――」


「それだけのはずがないだろう」


サーベイランスは不機嫌そうに口を開いたジャズの言葉を、すぐにさえぎって話を続ける。


「近いうちに帝国とオルタナティブ·オーダーの決戦が始まるという話だ」


「えッ!?」


両目を見開いたジャズ。


サーベイランスは彼女のことなど気にせずに、アンから聞いた説明をし始める。


なんでもブラッドとエヌエーが調べたところによると、オルタナティブ·オーダーがエレクトロハーモニー社から大量に兵器を受け取っているようだ。


それだけなら気にするようなことでもなかったが、どうやらその兵器を一ヶ所に集め、その場所にオルタナティブ·オーダー軍の人員もそこにすべて呼び寄せているらしい。


さらにアンたちは、オルタナティブ·オーダーと協力関係にある国――反ストリング帝国の兵力とも連絡を取り合っている情報も手に入れていた。


「これは近いうちに帝国に攻め込むと思われる……。それがメディスンの予想だが、まあ当たりだろうな」


「そんな……。ライティングはどうして急にッ!?」


「おそらくだが、目的は捕まっている仲間の奪還だっかんだろう。こないだ忙しそうにしていたとの、お前に協力を願っていたのはこの戦闘のためじゃないのか」


ジャズが肩を落とすと、ニコが慌てて彼女に駆け寄った。


そして、その豊かな白い毛を揺らしながら寄り添う。


そんなニコに慰められているジャズに、サーベイランスは言う。


「この状況を聞いても、まだこの国がほしくはないか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る