#710

――リュージュが気を失ってから数日が経った。


だが、女王の意識はいまだに戻らず、ジャズは彼女の眠っている部屋へと居ることが増えていた。


その数日の間にも、レジーナ王女に動きはなかった。


「リュージュ女王……」


眠っているリュージュの顔を眺めるジャズ。


その周りには使用人らが暗い表情で並んでいる。


リュージュを診た医者の話によると、女王は年齢と長年の心労しんろうで身体が衰弱しきっており、回復する見込みはかなり薄いようだ。


「あたし……信じてます。きっとあなたはレジーナ王女と会うまで死なないって……。そのためにも必ず王女をあなたの前に……」


眠っているリュージュの手をギュッと握り、祈るよう言ったジャズは、使用人たちに頭を下げて部屋を出ていった。


宮殿の廊下に出た彼女は、それからトボトボと歩き出す。


(あたしがレジーナ王女と会ってから……まったく反乱の動きがない。それは良いことなんだけど……。でも、このままじゃ、レジーナ王女を連れてくる前に、リュージュ女王が持たないよぉ……)


歩を進めていくその内心で――。


何の手掛かりも掴めないレジーナの行方に、頭を痛めるジャズ。


二人の話し合いの場を作ろうとも、レジーナが見つからなければどうしようもない。


一体どうすればいいのかと、ジャズが悩んでいると――。


「おい、アン·テネシーグレッチから連絡が入ったぞ」


ヒョコッと突然現れた小さい機械人形――サーベイランスが声をかけてきた。


ジャズはサーベイランスを見ると、わかりやすくプイッと顔を背ける。


「あっそう。で、アンさんはなんだって?」


「ここじゃまずい。部屋に戻ってから話そう」


「いいから、今すぐ簡単に話してよ」


ジャズの冷たい態度に、サーベイランスは「はぁー」と肩を落とすと、呆れた様子で声をかける。


「まったく、いつなったら機嫌が良くなるんだ。これじゃ今後の作戦にも支障が出るだろう? もう少し大人になってくれ」


「どうせあたしは子供だよ。いいから早く話して。アンさんはなんて言ってたの?」


「……だから、ここではまずいと言っただろう。とりあえず部屋に戻ろう。話はそれからだ」


「ここで話してって言ってるでしょッ!?」


ジャズは突然声を張り上げると、サーベイランスのことを睨みつけた。


だが、それからは何も言わずに黙ったままの状態だ。


サーベイランスは、そんなジャズから目をそらすことなく、ただ見つめ返している。


しばらく二人が視線を合わせていると、そこへニコが駆け込んできた。


ニコは慌てた様子で、一体何があったのかとメェーメェー鳴きわめく。


「大丈夫だよ、ニコ。大丈夫だから」


そんなニコの頭を撫でるジャズ。


彼女はそれでも鳴き続けるニコを思ってか、サーベイランスに言われた通りに、自室に戻ることを決めた。


「一応言っとくけど。ニコのためだからね。別にあんたの言うこと聞いてるわけじゃないから」


「わざわざ言わんでいいことを、なんで口にするんだ……」


「ほら、行くよ」


そして、ジャズたちはリュージュに与えられた自室へと向かった。

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