#709

力強く体を掴み、声を張り上げて激励するジャズ。


リュージュはそんな彼女のことをおぼろげながらも見つめる。


「私にできることは……。この国を守るには……。ジャズ殿……。あなたにこの国を……」


「なに言ってるんですかッ!? あたしは客で女王はあなたなんですよッ!?」


ジャズはリュージュの言葉を大声でかき消した。


そして、彼女を見つめ返しながら訴える。


「あたしが必ずあなたとレジーナ王女の話し合いの場を作るからッ! だから……王女としっかりと向き合ってッ! そして国のことはあなたたち二人で決めるんですッ!」


ジャズの叫びを聞き、リュージュは笑みを浮かべると、そのまま気を失った。


それからジャズは彼女を抱えて部屋を出ると、再び早く医者を寄越すように大声を出し続けた。


そのとき、彼女の後ろからサーベイランスが声をかける。


「IPSのときと同じことをするのか?」


サーベイランスが口にしたIPSとは――。


イノセント·パッケージ·シティの略称で知られる街である。


透明のガラスに覆われた街で、大災害後に湖の中に沈んでいたが、ジャズたちの活躍で地上へ戻ることができた。


サーベイランスはジャズをしたう街の住民たちを、彼女の軍隊へと変えようと提案した。


だが、ジャズはこれを拒否。


戦うのは自分たちだけで十分だと言った。


サーベイランスは言葉を続ける。


「ストリング帝国やオルタナティブ·オーダーと張り合うには、私たちにもそれ相応の力がいる。このオルゴー王国は規模は小さいなりにも山に囲まれた天然の要害だ。ここを私たちの起点とし、アン·テネシーグレッチやメディスンらと協力すれば――」


「自分の国を守ろうと苦しんでいる人からそれを奪えってのッ!? あんたはッ!?」


「奪うのではない。すでに宮殿の者や住民たちの心はリュージュ女王から離れている。そのことはすでに確認済みだ」


「サーベイランス、あんた……。ここ数日でそんなことをしてたのねッ!」


ジャズがサーベイランスに振り向くと、そこへ宮殿にいた使用人たちが医者を連れてやって来た。


リュージュが彼らに連れられていくと、サーベイランスはジャズの前を通り抜けて部屋を出ていく。


だが、ジャズは彼を引き止めなかった。


ただ、その小さな機械人形の背中をにらみつけているだけだ。


部屋を出て、宮殿の廊下を歩きながら、サーベイランスは思う。


やはりジャズ·スクワイアは変わらない。


あの――帝国からの追撃で命を落としたジャガーやクリーンのことで、何か心境の変化を感じたのだが、ただの思い過ごしだったと。


「遠回り……また遠回りをしたがる……」


しかし、胸からあふれるこの熱いものはなんなのだろうか。


非情になれない甘い戯言ざれごとをほざき続けるあの少女の愚直ぐちょくさに――。


何故自分は心をさぶられるのだろう。


頭の人工知能に異常はない。


故障でオーバーヒートしているわけではない。


では、やはりこれは――。


「あぁ……サービス……。お前が愛した人間は本当に面倒な奴だな……」


サーベイランスはそう虚空こくうに言葉を吐くと、嬉しそうに廊下を進んでいった。

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