#708

それからサーベイランスは、リュージュが内戦――レジーナ王女を捕らえた後に考えてることを話した。


リュージュの考えは――。


このオルゴー王国にジャズ·スクワイアを置くことで、ストリング帝国やオルタナティブ·オーダー、さらには各国を牽制するつもりなのだと。


「たとえば帝国が攻めてきたとしよう。あなたはジャズ·スクワイアを先陣に立たせて、そしてオルタナティブ·オーダーに救援を頼む」


サーベイランスはそう言いながら、宙へとゆっくりと浮かんでいく。


その機械人形の身体に内蔵してある反重力装置アンチグラビティを使って。


「その後、当然オルタナティブ·オーダーはこの国に軍を置きたい。だが、そこはジャズ·スクワイアが許さない。あなたはそれを狙っている。そして、オルタナティブ·オーダーや各国が襲ってきても同じことをする。こうしてこの国は侵されることなく、平和を維持できる――と、あなたはそう考えている」


宙に浮いたサーベイランスが、リュージュへ近づきながら言う。


だが、リュージュは自分の足元を見ながら、ただその身を震わせているだけだ。


「アン·テネシーグレッチの再来であるこの女がいれば国は安泰。さらに世論も味方に付けられる」


浮いたサーベイランスがリュージュを見下ろしながら続ける。


「だがその実、あなたはこの国の平和を守っているようで、平和を盾に自分の自尊心を守っているに過ぎない。だからこそレジーナ王女は――」


「サーベイランス! それ以上喋るなッ!」


ジャズは、宙に浮いてリュージュを見下ろしていたサーベイランスに掴みかかった。


だがサーベイランスは口を閉じず、黙らない。


「バイオニクス共和国が世界を仕切っていたときとはもう時代が違う。これからは戦いに身を投じなければ、血を流しながら前に立たねば、この乱世に生きる場所などない」


「わ、私は……私は……」


リュージュは、ついにその場には倒れてしまった。


ジャズが慌てて彼女を支えてたおかげで床に倒れることはなかったが、ゴホゴホと咳き込み、呼吸することさえ苦しそうだ。


「酷い熱じゃない……。医者を……急いで医者を呼ばないと! 誰か! 誰かぁぁぁッ!」


ジャズは部屋の扉を開けて叫ぶと、リュージュを支えたまま、サーベイランスをにらみつける。


「サーベイランスッ! あんたはあたしの仲間でしょッ!? あたしの参謀、軍師なんでしょッ!? なのに、良くしてくれてるこの人を……言葉で殺すつもりッ!?」


ジャズが叫ぶと、リュージュは震えながらも体を起こそうとしていた。


そして、女王はサーベイランスのほうを見つめ、途切れながらも言葉を発する。


「参謀殿……。私が……間違っていたというのですか……? だから……レジーナは……。私は……一国を統べる器ではなか……」


「いや、あなたは立派な女王だよッ!」


ジャズは、今にも気を失いそうなリュージュに向かって、凄まじい激を飛ばした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る