#690

――その後、トランスクライブを落ち着かせるために、メモライズが彼を連れてその場から離れた。


残ったジャズ、ライティング、そしてラムズヘッドの三人だ。


くしくも、最初に話し合ったメンバーが残った。


トランスクライブとメモライズが去った後、まずライティングがその口を開く。


「ジャズ……。彼、いやサーベイランスの言っていたことは……」


「待ってライティングッ! サーベイランスの言い方は悪かったけど、あれでも世界のことを考えているんだよ!」


「そうかもしれない……。だけど、君たちの協力は得られそうにないね……」


「そんなことは……。ライティングたちがあたしたちの考えを受け入れてくれたらッ!」


「それは無理だと言っただろう」


感情的に話すジャズにライティングは静かに言った。


自分には、ストリング帝国のしたこと――やっていることを許すことはできないと。


そう言ったライティングは、ジャズの目を見つめながら、とても悲しそうにしていた。


見つめられたジャズは言葉を失い、ライティングもまた何も喋らなかった。


そんな二人を見かねてか、ラムズヘッドがその口を開く。


「このまま話していても時間の無駄だね。ライティング、君は次の仕事があるんだろう? 彼女を引き入れるのは諦めて仕事に行ったらどうだい?」


「ちょっと待って!? あたしはまだライティングとッ!」


「いや、無駄だよ。平行線とはまさにこの状況のことを言うんだ。それに、もし君がライティングに協力したとしても、君に付き従っているロボット君とヤシの木頭の子は納得しないだろうしね」


ラムズヘッドの言葉にジャズが何も言い返せないでいると、ライティングはその場から去っていく。


ジャズは慌てて彼の背中に声をかける。


「待ってライティングッ! 話はまだッ!」


「悪いけど、次の仕事があるんだ。後でここへ人をやるからこの場で待つか、または町から出てってくれ」


「ライティングッ!」


「ジャズ……。せめて君がボクたちの邪魔をしないことを願うよ……」


ライティングは振り向くことなくそう言うと、その場を後にした。


残されたジャズはライティングのことを追いかけようとしたが、彼にかける言葉が見つからず、その場に立ち尽くしてしまっていた。


(なんで……なんでこうなるんだよ……。あたしはただあいつみたいに……皆を笑顔にしたいだけなのに……)


ジャズは内心でそう呟くと、全身から力が抜けていった。


帝国の陸上戦艦から脱出し、その追撃から逃れ、ようやくかつての仲間と会えたというのに――。


どうして互いに協力し合えないのか。


ジャズはそう思うと、両膝から崩れ落ちそうになる。


(……でも、こんなことであいつは……絶対にくじけない! それに、あたしには助けてくれた三人の想いだって託されてるんだ!)


だが、ジャズは倒れなかった。


今彼女の脳裏に映っているのは、マシーナリーウイルスの適合者の少年ミックス·ストリング――。


そして叔父であるブロード·フェンダー、自分を救うために死んでいった双子の弟のジャガー·スクワイアと、共和国にいたときの後輩クリーン·ベルサウンド――。


四人の仲間の顔だった。


彼らのことを考えると、ジャズは落ち込んでなんかいられないと、気を引き締める。


「じゃあ、俺もそろそろ行こうかな」


そんなジャズとは対照的に――。


ラムズヘッドがヘラヘラとした軽い口調でそう言った。


ジャズは立ち去ろうするラムズヘッドに声をかけようとはしなかったが、彼は去り際に彼女へ訊ねる。


「ねえ、ちょっと聞いておきたいんだけど。君の身体にもマシーナリーウイルスは注入されているのかい?」

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