#689

サーベイランスは、その覚えた感情に戸惑っていた。


サービスのルーザーリアクターを身に付けてから、どうも自分の思考とは違うことを感じてしまう。


だが、そもそもルーザーリアクターとは、自然からのエネルギー技術を用いた永久発電機関。


サーベイランスやサービスの心臓は、それを動力炉として使用している。


当然サーベイランスの身体は機械で、そして脳は人工知能だ。


だが、ナノマシンやデータ信号で学習、更新を繰り返すことにより、人間のシナプスの働きや細胞の循環を再現している。


つまりそれは感情を理解し、自分でもそれを学び、感じることができるということである。


サーベイランスの感じ方は、アンドロイド少女サービスが感じるものだと、彼は考えていた。


(ジャズ·スクワイアに心を乱すなと言っておいてこれでは……。いや、今はそんなことよりも)


サーベイランスはラムズヘッドに覚えた不快感を飲み込み、話を続ける。


「それにオルタナティブ·オーダーとして血生臭いライティングよりも、かつて世界を救った英雄――ヴィンテージであるアン·テネシーグレッチの再来と噂されてるジャガー·スクワイアのほうが、世界の民をまとめやすいはずだ」


「つまりロボット君は、担ぐ神輿みこしが血で汚れていたら人望は得れないと? そう言いたいわけだね」


「その通り、話が早いな。血まみれの姿で世界を纏めることなど不可能だ。暴力の匂いというものは、人が思うよりもずっと強烈だからな」


サーベイランスが言葉に耐えきれず、ついにトランスクライブが身を乗り出してきた。


トランスクライブはそのサーベイランスの人間の子供ほどの大きさの身体を掴み上げ、今にも殴り掛かりそうな勢いで叫ぶ。


「なにもわかってねぇ機械が偉そうに言ってんじゃねぇぞッ!」


「偉そう? 私は自分の主張と事実を言ったまでだ」


「なにが事実だッ! 機械に人間の気持ちが……オレたちがなんで戦っているかわかってたまるかよッ!」


怒るトランスクライブを止めるために、ライティング、メモライズ、そしてジャズが割って入った。


ニコもサーベイランスをトランスクライブから離そうと、慌てて彼――サーベイランスを部屋のすみへと押していく。


「ちょっとトランスクライブッ! 手を出しちゃダメだよッ!」


「ジャマすんなメモライズッ! この機械人形に教えてやんだよッ!」


背中からトランスクライブを捕まえるライティングと、彼を前から押さえているメモライズとジャズ。


だが、いくら三人に止められてもトランスクライブの怒りは収まらない。


「ニコッ! ブライダルッ! ちょっとサーベイランスをどこかに連れて行ってッ!」


「はいよ~」


何故か笑っているブライダルはサーベイランスの身体をヒョイッと担ぐと、ニコと共にその場を去って行った。


サーベイランスを肩に担ぎながらブライダルが小声で言う。


「いやいや、派手に言ってやったもんだね~。マジ切れさせちゃってさ~」


「そういうお前は、なんだか嬉しそうだな」


「そりゃまあ、私はあんたに賛成だし~。ねえニコ?」


ブライダルに訊ねられたニコは、困った顔でただ彼女を見返して鳴くだけだった。

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