#691

ジャズは何故そんなことを訊いてくるのかと思ったが、ラムズヘッドの質問に答えた。


ストリング帝国では、今から七年前の戦争――アフタークロエ以前に軍に入った者は、一兵卒から将軍まで全員マシーナリーウイルスを注入されている。


当時まだ幼かったジャズだったが、家の事情もあり弟ジャガーと共に軍に配属。


だがら当然マシーナリーウイルスは注入されていると言う。


「まあ、あたしは運が良かったのか悪かったのか、機械兵オートマタにも適合者にもなれなかったけど」


彼女がいう機械兵オートマタとは、マシーナリーウイルスに適合できず、その身体が完全に機械化してしまった者のことだ。


機械兵オートマタの力は適合者にも劣らないが、自我は完全に失われ、帝国の兵隊としてしか動けなくなってしまう。


当時多くの帝国兵が機械兵オートマタになる中で、ジャズやジャガーのように特に変化のない者もいた。


「だけど、どうしてそんなことを訊くの?」


ジャズは不可解な表情で訊ね返した。


それは、今彼女が話したことは、帝国との戦争に勝利したバイオニクス共和国がすでに世界へ発表していたからだ。


たしかにジャズの年齢を考えれば、マシーナリーウイルスが注入されていない可能性もあった。


だが、今そんなことを訊いてくる意味が、ジャズには理解できない。


「いやいや、ちょっと気になっただけだよ。何せ君は今やあの伝説のヴィンテージであるアン·テネシーグレッチの再来と言われているんだ。しかも、その伝説を味方につけているんだろ? もし君が適合者だったら面白いなと思ってね」


そう言って目玉をギョロギョロ動かすラムズヘッド。


ジャズはそんな彼に対して、言葉にできない不愉快さを感じる。


「それでジャズ中尉、いやジャズ、君はこれからどうするつもりだい?」


「……とりあえず、ライティングが言っていた人を待つことにする。もしかしたら彼が戻ってきてくれるかもしれないし」


「そうか。まあ、期待しないほうがいいと思うよ。では、またどこかの戦場で」


そして、ラムズヘッドは立ち去っていった。


ジャズは彼に対し、不愉快さを抱えながらも、ライティングたちオルタナティブ·オーダーを支援してくれている人物では変わりないとその感情に蓋をする。


「ラムズヘッド……。なんかいかにも怪しい人だけど。ライティングの人柄を買っているんだから、人を見る目はあるよね」


そして、まるで自分に言い聞かせるように呟くのだった。


――ジャズと別れたラムズヘッドは、一人で町中を歩いていた。


「やっとアン·テネシーグレッチが動いたか……。しかし、今でもまさかあんな小娘を助けるためにとはね。さてと、ではその小娘の仲間のとこにでも行っておきますか」


ラムズヘッドは、誰かに聞こえても構わないほど音量で独り言を口にすると、ジャズの仲間――ブライダルとサーベイランスのもとへと歩を進めた。

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