#675

マローダーがそう言った次の瞬間、目の前に戦闘用ドローンが現れた。


ライティングたちが乗っているNano Muff Personal Insight(ナノ マフ パーソナル インサイト)通称ナノマフPIと同型――無人機であるナノクローンだ。


ナノクローンは地面を割って現れたのだ。


まるで巨大なモグラである。


地面から現れた数機のナノクローンは、ライティングたちに襲い掛かって来た。


「くッ!? 残念だよマローダー少尉。全員戦闘態勢ッ!」


ライティングが叫び、コックピットのハッチを閉める。


コックピット内で周囲を見回すと、同じように地面からナノクローンが現れていた。


それに合わせ、マローダーの後方にいたプレイテックが電磁波を発射してくる。


「やはり待ち構えていたのか。だが、それぐらいは想定済みだよ」


ライティングが表情を歪めながらも呟いた。


帝国軍の見事な奇襲ではあったが、訓練された少年少女たちは皆冷静だった。


向かってくるドローンに対してナノマフPIの手をかざし、掌からビームを発射して迎撃している。


閃光が輝き、轟音が鳴り響く中でマローダーは手に光剣――ダブル·ブレードを持ってその中を進んでいた。


ナノマフPIのビームをブレードで弾きながら、彼はライティングの乗る黒いマシンへと歩いていく。


そんなマローダーに、冷静だった少年少女たちも少し動揺しているようだった。


こんなマシンだらけの中で、生身の――何の特殊能力を持たない人間が一人向かって来ているのだ。


どう見ても自殺行為にしか見えず、実際にマローダーの身体にはかすったビームによる火傷が増えている。


だが、それでもマローダーはひるまない。


機械以上に機械らしく、プログラミングされた指示を実行するような動きをみせている。


「皆はドローンをッ! マローダー少尉はボクが相手をするッ!」


少年少女たちの動揺を感じ取ったライティングは、向かってくるマローダーに飛び掛かって行った。


ライティングの考えはシンプルだ。


ここでマローダーを倒せば、味方の動揺が消えて一気に敵を制圧できる。


対するマローダーのほうは、考えているとは思えないがほど愚直にただ前へと進んでいた。


「地面にドローンを仕込んでいた人にしては、随分と不器用なやり方だね」


ライティングの乗るナノマフPIの腕が、マローダーへと振り落とされる。


自分の倍の大きさはあるマシンの一撃を、マローダーはブレードで受け止めた。


両足が地面へとめり込むほどの一撃だったが、マローダーの表情が変わることがない。


「名門ギブソン家にしてはあまりに愚直ぐちょくな戦闘スタイル……。だけど、ボクはそんな君のやり方、いや生き方は好きだよ!」


ライティングは何度も拳を振り落とす。


ブレードでその攻撃を受け続け、次第に腰まで沈んでいくマローダー。


だが、彼の心に動揺――恐怖はない。


「俺も……」


そして、マローダーは変わらぬ口調で言葉を返す。


「俺もお前に好感を持っている……」


「なら、ボクらに協力してくれ! マローダー少尉ッ!」


ライティングは叫びながらも攻撃の手を緩めなかった。


もうマローダーの身体は完全に地面に埋まってしまっている。


しかし、それでもマローダーは動じない。


「何があろうと……自分は……ギブソンの人間だ。ストリング帝国以外に居場所などない」


マローダーはポツリとそう言うと、地面から這い上がってライティングの攻撃――ナノマフPIの腕を斬り払った。


その一撃はナノマフPIの片腕を切り落とし、再び前へと向かうマローダーは言う。


「正直、誘いは嬉しかった……。お前の言葉に嘘はなく、心から言っているのがわかるからな」


「マローダー少尉ッ!」


「だが、自分はギブソン家の長子――国は裏切れない。ありがとう、そしてさらばだ……ライティング」


そして、ダブル·ブレードの光の刃でライティングへと斬り掛かった。

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