#674

――ジャズがNano Muff Personal Insight(ナノ マフ パーソナル インサイト)通称ナノマフPIを追いかけているとき。


それに乗り込んだライティングは、少年少女たちを連れてストリング帝国軍の目の前まで来ていた。


マシンの足を止めてコックピットのハッチを開けると、ライティングは帝国軍に向かって叫ぶ。


「オルタナティブ·オーダーのライティングです。この部隊の指揮官は誰ですかッ!?」


これから戦闘に入ろうというのに、随分と悠長ゆうちょうな行為だが、ライティングには考えがあった。


それは、ジャズが帝国から逃げ出したとき――。


彼女の双子の弟であるジャガー·スクワイアと、帝国内でも好かれていたクリーン·ベルサウンド死。


さらにヘルキャット·シェクター、アリア·ブリッツの裏切りと、何よりもかつての英雄――ヴィンテージであるアン·テネシーグレッチがジャズを助けたという事実。


ライティングはその話から想像し、帝国内でもこちら側に投降とうこうする者が現れる可能性があると考えたのだ。


「ここへは戦いに来たんじゃない。ボクらはただ話がしたいんだ」


ナノマフPIからその身をさらけ出しているライティングには、たしかに戦闘の意思はなさそうに見えた。


そのせいか、彼らの目の前にいる帝国の装輪装甲車――プレイテックも上部に付いた大型のインストガンから電磁波を発射せずにいる。


その並んでいるプレイテックの中の一台から、一人の男がライティングの前へと出て来る。


小柄で顔中に小さな傷がある青年――。


名門ギブソン家の長子――マローダー·ギブソン少尉だ。


マローダーはライティングに向かって、静かながらよく通る声で訊ねる。


「自分はこの部隊を指揮するマローダー·ギブソン少尉だ。それで、その話とはなんだ?」


「あぁ、セティ大尉のもとにいたマローダー少尉ですね」


ライティングはマローダーの姿を見て、穏やかな笑みを浮かべた。


どうやらライティングは彼と面識があったようだ。


だが、マローダーの表情は動かない。


眉一つ動かさずに、無感情にライティングの姿を見ているだけだ。


ライティングは言葉を続ける。


帝国の上層部――ローズ将軍は、味方であるジャズを捕らえようとし、それに異を唱えたジャガー·スクワイアを殺した。


彼と同じく異を唱えたヘルキャットとアリアが、ジャズを救うために帝国を脱走。


その後、ウェディングとクリーン·ベルサウンドの協力によって、ジャズは今自分たちのところにいると。


「そして、クリーンはローズ将軍に殺された。彼女はただ大事な人を守ろうとしただけなのに……」


ライティングは瞳に涙を溜めて、マローダーや他の帝国兵へ言う。


「それが今の帝国のやり方なんだ! だからこそ、そんな状況を知ったからこそ、あのアン·テネシーグレッチが動いたんだよッ!」


マローダーはもちろん、帝国側に反応はない。


だが、それでもライティングは喋ることをやめない。


「そんな彼女の……。アン·テネシーグレッチの気持ちがわかるなら……。そして今の帝国に疑念を持ったのなら……。ボクらのもとへ来てほしい! 一緒に帝国の独裁どくさいを止めるんだ」


ライティングの熱弁に、やはり帝国側に反応はない。


それを見てライティングは悲しそうに表情を歪めていると、マローダーがその口を開く。


「話は終わったか。では、戦闘開始だ」

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