#673

ジャズはライティングたちを追いかけようとした。


すると、傍に立っていたラムズヘッドが声をかけてくる。


「追いかけどうするつもりだ? まさか戦うなとでも言うのか? だが、彼らが戦わないと帝国がこの町を破壊してしまうよ」


「だからってジッとしていられないでしょッ!? そもそもあんたがあんなもん持って来なければ、ライティングだって子供たちに与えたりしなかったんだよッ!」


「物量で勝る帝国を相手に、普通の兵器じゃやりあえないだろ? ただでさえオルタナティブ·オーダーには子供が多いんだ。いちいち操縦を教えるよりも、リスクがあっても手足のように使えるナノマフPIのほうが良いのがわからないのか?」


ジャズはラムズヘッドに、何も言い返すことができなかった。


たしかにそうなのだ。


ストリング帝国は現在世界で一番武力を持っている国だ。


元々軍事国家ということもあり、今は亡き皇帝レコーディー·ストリングが生きていた全盛期よりは弱まって実戦経験のある兵が減ったとはいえ、それでも他の国よりも強国といえる。


さらに、ヴィンテージであるローズ·テネシーグレッチ将軍がいる。


彼女とまともに戦えるのは、同じくヴィンテージであるアン·テネシーグレッチとローズと肩を並べる帝国の将軍ノピア·ラシックくらいだ。


そんな帝国を相手に、オルタナティブ·オーダーは年端もいかぬ少年、少女兵ばかり。


ろくに戦うことも知らない子供たちを使って戦争をするなら、たとえ四肢を失っても、自分の身体のように扱える兵器を使うしか道はないのだ。


ラムズヘッドが言っているのは、口が挟めないほどの正論だ。


だが、それでもジャズは感情に身を任せて吠える。


「わかってるよッ! それでも、あんなもの……絶対に使っちゃいけないんだッ!」


ジャズはラムズヘッドのそう言うと、近くにあったジープまで駆け出してそれに乗り込む。


周りにいた少年たちが慌ててジャズを止めようとしたが、彼女はクラクションを鳴らし、そのまま走り出して行ってしまった。


その光景を見ていたラムズヘッドは、去っていくジープを眺めながらその口角を上げていた。


「ブロード·フェンダーのめい、ジャズ·スクワイアか……。まさか彼女がアン·テネシーグレッチを動かしてくれるとは……。こいつは思ったよりも早く決着がつきそうだ」


――ジャズは何もない平地をジープで走っていた。


人型のドローンであるNano Muff Personal Insight(ナノ マフ パーソナル インサイト)通称ナノマフPIがどれだけの速度で移動できるのかはわからないが、もし同じ型の戦闘用ドローン――ナノクローンと同じ性能なら、エンジンを全開にして走れば追いつけるはず。


そう思いながらハンドルを操作していたが、ジャズは悩んでいた。


それは、どんな言葉をかけても、ライティングのことを止められる気がしなかったからだ。


先ほどのラムズヘッドの正論が、彼女の頭の中から離れない。


「物量で勝る帝国を相手に、普通の兵器じゃやりあえないだろ? ただでさえオルタナティブ·オーダーには子供が多いんだ。いちいち操縦を教えるよりも、リスクがあっても手足のように使えるナノマフPIのほうが良いのがわからないのか?」


(わかってるよ……そんなことは……。でも、どこかで殺し合いを止めないと、一生恨み合いが続くじゃないッ!)


恨み合いや憎しみ合いは、多くの国々が抱えている最大の不幸である。


ジャズはノピアの軍に従軍し、各国へ行ったときにそのことを知った。


だが、所詮は一介いっかいの軍人。


ましてや、まだ未成年である。


ずっと自分には何もできないと思っていた。


だが、バイオニクス共和国に来たとき――。


そこで出会ったマシーナリーウイルスの適合者の少年ミックスは、たとえどんな状況だろうとけして諦めず、たとえ相手から憎しみをぶつけられてもその悪しき感情と戦っていた。


自分も彼のように戦うのだ。


ジャズはそう思いながら、ミックスのあの乾いた笑みを思い出す。


「そうだよ……。あいつがここにいないんだ……。だったらあたしが諦めちゃダメじゃないのよッ!」

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